シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
心が落ち着いてきた処で、改めて周囲を見渡せば…、紫茉ちゃんの家にいたはずの…あたしの直前の記憶とはまるで違う場所にあたしは居るようだ。
消毒液の匂いが、鼻を掠める。
………。
見覚えある場所だ。
此処は――…
「桜華の、第二保健室?」
何処をどうすれば、そんな場所であたしが寝ていることになるんだろう?
「え、何で? 皆は何処?」
首にクオンを巻き付けたまま立ち上がり、仕切りカーテンを開けると、やけに身体がふらついた。
息が上がるのを不可解に思いながらも、よろよろと…記憶を辿るようにして、部屋の内部に足を進ませる。
「お、神崎…目覚めたか~ッッ!!」
物音を聞きつけた由香ちゃんが、血走った目で抱きついてきた。
「よかったよ…流石は変な氷皇の薬!! 朱貴に絶対目覚めるからと後押しされて飲ませても、やっぱり気になって仕方が無かったんだよ、ボク!!!」
由香ちゃんから聞く処によれば――
何でもあたしは…紫茉ちゃんの家でぶっ倒れてしまい、現われた朱貴の導きによって桜華の第二保健室に運ばれたらしい。
もう健康になったはずの心臓が変調をきたしたのも意外なれば、玲くんが辟易するレベルのものを、朱貴…紅皇サンが応急処置をしてくれたのも意外で、更には仕上げとばかりに蒼生ちゃんが姿を現し、薬で助けてくれたのも意外だった。
だけど…玲くんの心臓発作を落ち着ける薬くれたのも蒼生ちゃんだったしな。
――あははははは~。
蒼生ちゃん…来たんだ…。
薬を託すのが手紙や人伝(づ)てではなく、例えついでだろうと…直接手渡しに来たということに、どうしても…裏に何かあるんじゃないかと考えてしまう。
ありがたいよりは、後が怖い。
厚意の見返りが恐ろしい。
これも氷皇の人柄と人徳のなせる業だろう。
「随分と…内装が変わったね。工事中?」
応接を兼ねた空間にはソファがあるだけで、以前あった…その間の机がなく、ビニールシートが広げられていた。
「いや…工事はとっくに終了してたんだけれど、現在修繕予定中」
由香ちゃんの答えは微妙すぎて、よく判らない。
「ん……?」
何かがぱらぱらと落ちてくるから、天井を見上げれば、
「な!!!?」
天井には大きな皹。
何かが直撃したような、不自然さを感じるものだ。
しかも…天井の皹に挟まってぶらりとしているのは…
「林檎…?」
ウサギさん林檎のように見えるけれど、確かめる術はない。