シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

その時、ドアが開いて…百合絵さんが入ってきた。


大きな炊飯器を抱えている。


「芹霞嬢ちゃま、動けるようになってよかったです。ずごっ」


百合絵さん…意外に涙もろい。


「百合絵さん、何であたし"嬢ちゃま"?」


あたしは庶民で、セレブじゃないし。


「玲坊ちゃまの婚約者は…嬢ちゃまです」

「こ、ここ婚約者!!!?」


声がひっくり返ってしまった。


「はい。玲坊ちゃま…テレビで宣言されたの、私も見ました」


堂々と百合絵さんは言うけれど。


「あ、あれは…成り行きというか、無効というか…」


「坊ちゃまと結婚、したくないんですか!!?」


百合絵さんの目が、くわっと見開いて…


「け、けけけ結婚なんて…」


その迫力にたじろいで、1歩後退すると。



がり。


「痛っ!!」


見れば、首元のクオンが、あたしの病巣に爪をたてていた。


「フーーッッ!!!」


何やら怒っているようだ。


「芹霞嬢ちゃま、玲坊ちゃまと結婚されないんですか!!?」


再び百合絵さんの、迫力攻撃。


がり。


「痛いっ!!」


続けてクオンの、病巣攻撃。


「フーーッッ!!!」



突き刺すような鋭い紅紫色の瞳。

一体何を興奮しているんだ。


百合絵さんの迫力が怖いのだろうか。


「芹霞嬢ちゃま…、玲坊ちゃまを旦那様にしたくないんですか!!」


諦めない百合絵さん。

スルーする気もないらしい。


「ゆ、百合絵さん…あたし達まだ付き合ったばっかだから…。気が早いよ…」


それが正直な処。

恋愛を経て結婚で収まるのは、確かに理想だろう。


だけど付き合って1日足らずして、更には元よりあたしにとって、旦那様より奥様のイメージ強い玲くんだから。


「現実問題として考える程に、心が追いついていないよ。

玲くんは好きだけれど…まだ始まったばかりだし」


そうやんわりと拒否すると、百合絵さんはあまりにも哀しそうな顔をしたから、


「時間が経てば…そ、そうなったらいいね…? まあこればかりは、今は何とも言えないや」


と話を合わせてみると。


バシバシッ。

病巣に何度か猫パンチを食らわせて、クオンは大人しくなった。


だから何だ、お前は…。

八つ当たりしてないか、あたしに。


「でも玲坊ちゃまは、直ぐにでも…」


百合絵さんは、項垂れてしょんぼりとしたようだ。

首の肉につかえて、少ししか動いていないようだけれど。


「玲くんだってそこまでは…あれ、玲くんは?」


にっこりほっこり玲くんの姿が見えない。

ちなみに紫茉ちゃんの姿もない。


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