シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「師匠は今、体育館で朱貴に稽古つけて貰っている。今は明け方だけど…まだ帰ってきてないよ。凄く頑張っているようだ」
「稽古? 強い玲くんが紅皇サンに?」
正直、驚いた。
あたしには、稽古の必要性が全く感じられなかった。
「うん。体育館で。ちなみに七瀬も稽古したいって、朱貴の制止を振り切って師匠に無理矢理くっついて行ったんだ。帰ってこない処をみれば、朱貴も諦めて七瀬に稽古つけているようだね」
「紫茉ちゃんも!!?」
紫茉ちゃん、強いのに稽古をしているの?
皆一生懸命頑張っている中、あたしはのほほんとベッドで寝てたの!!?
最悪じゃん、あたし。
何様なのよ、あたし。
「ああ、そういえば…。神崎が目覚めたら連絡くれって師匠に言われてたんだ。喜ぶだろうな、師匠…」
しかし由香ちゃんは、そんなあたしに不快感を示すでもなく、いつも通りの笑顔で、携帯をかけ始めた。
優しいな、由香ちゃんは。
由香ちゃんだって、眠らずイロイロ頑張っていたんだろう。
目が…真っ赤だもの。
「あ、師匠? ん、神崎目覚めたよ。元気そう。心配はないよ。代わるね」
あたしが当然のように手を伸した時、
「え、いい? 喋れるよ、神崎。え? あ、まあ…師匠がそう言うのなら…」
由香ちゃんは八の字眉であたしを見て、溜息をつきながら電話を切る。
「え、切っちゃったの?」
「う、うん…。神崎が元気なら、いいって…」
申し訳なさそうに由香ちゃんは言う。
「玲くん忙しそうだね」
曖昧に笑いながら、出した手を引っ込めたけれど…一抹の寂寥感は拭えない。
玲くんの声を聞く気満々だったあたし。
玲くんの声を聞きたいと思っていたあたし。
………。
玲くんは別にどうでもいいのか。
由香ちゃんとは話しても…あたしとは話さなくてもいいのか。
その温度差が…寂しい。
「神崎……?」
俯いてしまったあたしを心配してくる由香ちゃん。
いけない。
玲くんには玲くんの事情があるんだ。
たかだか1回、玲くんとお話出来なかったから何だというんだ。
だからあたしは――
「ポジティブシンキングッッ!!」
拳を突き上げ、天井を見上げて力強く言い放つ。
「ぬを~!!?」
驚いた由香ちゃんがよろめいて、後ろに居た百合絵さんにぶつかり…そのお肉にぼよんと跳ね返されて、あたしに抱きついた。
「フギーッッ!!」
潰されたクオンが、怒って由香ちゃんに爪をたてる。
「な、何するんだいッッ!! うら若き乙女の美しい顔に…」
「フーッッ!!」
派手に逆立つ…ふさふさの毛。
「話せば判る、話せば!! て、訂正するから。うら若き乙女の…く、腐った顔に…」
クオンは目を瞑って、静かにまた眠り始めた。
そのお返事に満足したらしい。
「ぐすん」
由香ちゃんは鼻を鳴らした。