シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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あたしの服は、応急処置の為にボタンが取れてしまっているということで、保健室に予備として置いてある桜華の制服を着替えさせて貰っている。

それも紅皇サンの心遣いらしく既に用意されていて、さすがは皆から尊敬されているだけの慈悲深いお方だと思う。

百合絵さんは…体型に似合う服がなかったらしく、依然紫堂家で着ていた…紺地のメイド服に白フリルのエプロン。

処処、破けて解(ほつ)れてしまったものは…紅皇サンから貸して貰った裁縫箱で、ちくちく修繕を終えたらしい。

あんなに太くて短い指で器用に裁縫が出来たことも、この保健室には普通の家みたいに何でも用意されていることも、あたしは驚くばかり。


早朝7時。

あたし達は山のおにぎりとポットに入れたお茶やお茶碗を持って、体育館に向かった。

大荷物だけれど…ほとんど百合絵さんが持ってくれた。


――メイドですから。


百合絵さんは本当に優しいと思う。

傍に居るだけで、温かい気持ちになる。

それは…身体についているお肉のせいだけではないだろう。


玲くん達が居る体育館は保健室から少し離れた…別館という処にあるらしい。

もう学校は始まる時刻だけれど…生徒がくる気配がないのは、桜華が創立記念日だかららしい。

廊下の掲示板に大きな紙が貼られている。


そしてそれより目立つように貼られているのは…


『明日3時より、姉妹校桐夏学園高校の講堂にて、マスターの説法。後、奇跡の再現』


そんな手書き文字だけの、質素なの黄色い紙のポスター。


「「桐夏で…奇跡?」」


あたしは由香ちゃんと首を捻った。


しかも黄幡会の文字が赤字でやけに目立つ。


そしてそのポスターの下には、

『願い求めよ、さすれば汝に与えん』

そんな文句の下には名前。


『guider:HARUKA』


桐夏で何かが起こるだろう事以外に、何だかよく判らないや。


「足の踏み込みが足りないッッ!!!」


突如そんな怒鳴り声が聞こえて、驚いたあたしは由香ちゃんと抱き合うようにして、その場で飛び上がってしまった。


「ソコ曲ったら、もう体育館なんだな…」


由香ちゃんが息を整えながら、苦笑して言った。
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