シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


ガラガラガラ…。


その重音に驚いて見れば、紅皇サンは紫茉ちゃんが用意したラケットを手にして、テニスボールが入ったカゴを引きながら、玲くんから少し離れた場所に歩いていた。


そして――


「玲ッッ!!! 全て足で弾き返せ」


ラケットでバシバシと…超速度で黄色い硬式テニスボールが玲くんに打込まれていく。


その凄まじさに…呆然としたあたしの手からポロリとおにぎりが零れて、クオンのふさふさに埋もれた。


「フーッッ!!?」


騒いだクオンがふるふると身震いをして、ご飯粒を飛び散らかす。


ぺたぺたぺた。


ご飯粒があたしに降りかかる。


ぺちん。


クオンの頭を叩いたら、ぱしぱしと尻尾で顔に反撃食らった。


「玲くん…見えてるの、あれ…」

「らしいね…」


目を細めて息を飲んで見つめたら、ぼんやりと…玲くんらしき影が見えてきた。


玲くんは身を翻したり、バク転したり、横転したりしながら、足でボールを蹴り飛ばしている気がする。


何で玲くんあんなに早く動けるんだろう。

その動きも軽やかで踊っているようだ。


ひらひらと…まるで蝶のよう。


玲くんから返されたボールを、更にラケットで打ち返す紅皇サン。

1球たりともボールが床に落ちる気配はなく。


ボールは数を増し、更に速さが壮絶となる。

同時に玲くんの速さも増して、もうよく見えない。


ボールによる集中豪雨の中に、玲くんと紅皇サンは消えてしまった感じだ。


「紫茉ちゃん…お稽古って、ずっとあんな感じなの?」

「ああ。今はまだ優しい方じゃないか? 前半はかなり身体酷使して鍛錬させられてたぞ? しかも…玲の力というものは凄いな。電気の力…この体育館がよく壊れなかったと思うよ」


「力使ったの!!? それでこれだけ動いて…。発作は…?」

「起きていない。食らいついている。仮に起きても朱貴がいるから大丈夫だろうが…芹霞、玲は凄いな…」


紫茉ちゃんは…うっとりとしたような顔つきになった。


「凄いよ。やればやる程、確実に強くなっていく。要領がいいのか、飲み込みが早くて…憧れるな、あの…舞うような優雅な美しさには…」


紫茉ちゃんには、玲くんの動きが見えているのか。

見えているから、そんな顔をするのか。


ちくん。


胸が痛んだ。
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