シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「格好いいと思うな、玲は。優しさだけの男じゃないよ。強靱でしなやかな身体を持っているし…顔つきも、短期間でぐっと男らしくなったし。男なんだな、やっぱり玲は。あたしはますます玲が気に入った」
ちくん。
どうして…そんな顔をするの、紫茉ちゃん。
どうして…"男"を強調するの?
紫茉ちゃん…
玲くんのことを好きになったの?
「そんな玲に愛されるなんて、幸…どうした?」
紫茉ちゃんが怪訝な顔であたしを見ていて。
「え、別に?」
にっこり笑って見せたけれど。
「あたし、何か変なこと言ったか?」
「紫茉ちゃん、大丈夫だって。何もないよ?」
「だって芹霞、泣いているじゃないか」
「え?」
紫茉ちゃんが困惑したような顔で、親指であたしの目尻を優しく擦る。
その指先は…濡れていた。
あたしは…涙を落したという事実さえ気づかなくて、本当に驚愕した。
「玲ッッッッ!!!!」
その時、凄まじい怒声が聞こえて、あたしはびくんと震え上がった。
「やる気がないのなら、とっとと出て行けッッ!!!」
「す、すみませんッッ!!!」
「言っただろうがッッ!!! 稽古中は…邪念を捨てろとッッ!!!」
「すみませんッッ!!」
玲くんが頭を下げていて。
紅皇サンはこっちを向いて、更に声を荒げた。
「外野、目障りだ、すぐ出て行けッッ!!!」
「「「はいッッッ!!!」」」
あたし達は竦み上がって返事をした。
"外野"
「紫茉も休憩10分過ぎたぞ!!? このまま遊ぶつもりなら出て行けッッ!!」
「すまない、戻るッッ!!!」
「二度目はないぞ!!?」
「判った!!!」
紫茉ちゃんは…、堂々と玲くんの元に行き、玲くんと同じようにテニスボールの洗礼を受ける。
あたしは紅皇サンの声に震えて玲くんを残して出て行こうとしたのに、紫茉ちゃんは玲くんの元で玲くんと同じコトをしている。
あたしは…自分が情けなく思った。
あたしは玲くんにとって、外野の存在だけれど、紫茉ちゃんは共に戦っていける近しい存在となり得るのがわかったから。
振り返って見る玲くんと紫茉ちゃんは、組み手に入っていて。
紅皇サンが檄を飛ばしたり、割って入って3人で組み手をしたり。
玲くんが優雅で気品ある動きをするのなら、
紫茉ちゃんは雄々しく鋭利に攻め込んで。
その逆もまた然(しか)り。
何処までも2人、吸い寄せられるようなコンビネーション。
紅皇サンがいようといまいと…そんな2人はあたしには眩しすぎて。
息が合うというより――
合いすぎていて。
息苦しかった。