シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
とぼとぼと体育館を背にして、保健室まで廊下を歩く。
溜息を零す度に、クオンが身を捩る。
生暖かい息が、くすぐったいらしい。
――神崎、窓を開けちゃ駄目だぞ。
そんなこと、帰り際に由香ちゃんが言っていた気がする。
――朱貴が言うには、結界が壊れるからだって。
いいな、結界。
あたしもそういうの出来ればいいのに。
どうしてあたし、役立たずなんだろう。
役立たずだけじゃなく、肝心な時に倒れて…足を引っ張ってる。
………。
「とりゃ、ほっ!!」
その場で拳を前に突き出して、片足を宙に蹴り上げ…そのまま回して身体を捩って、反対側の手の拳を突き出して…。
………。
「煌の真似したって、虚しいだけだ…」
所詮は目で覚えた物真似なんてただの盆踊りのようなもの。
戦力になるはずがない。
玲くんに一緒に戦うと言ったのに、あたし…戦う術を持っていないじゃないか。
あるのは…緋狭姉から教わった、"痴漢撃退術"。
「そんなんで撃退出来たら、玲くん稽古なんてしないよな…」
強い緋狭姉だったら、玲くんと走るに足るだろう。
颯爽と毅然と…玲くんを守るだろう。
ああ、願わくば、あたしもそんな姿になれたら。
あたしは妹なのに!!!
「お姉ちゃん、無事かな…」
煌と桜ちゃんに"約束の地(カナン)"につれられたらしいのに、あたしがじっくり顔を見る前に、"約束の地(カナン)"は爆破された。
由香ちゃんが言うには、久遠がお姉ちゃんを守って、2人共無事だという。
――せり、約束だ。
「久遠…」
「ニャア」
「……お前じゃないよ。久遠だよ」
「ニャア」
「だからお前じゃないって」
また溜息をついたらクオンが身を捩って震え出した。
その時だった。
コンコンコン。
何かがノックされるような音がしたのは。
周りを見渡せば…窓の外側に子供が居たんだ。
「!!!!」
ウサギさん。
ウサギさんのもこもこパジャマを来た、可愛い子供。
長い耳のついたフードをかぶり、愛くるしく笑う顔。
ふりふりと左右に振られる、尻尾のついた大きなお尻。
「やだやだ、何~。可愛い、可愛い」
あたしは窓を開けてその子供を手招くと、そのまま抱き上げようとした。
しかし――
「ありがとう~おねーたん」
一方的に不可解な…だけど可愛い御礼を言われて、その子供は手を振り走り去ってしまった。
もこもこのウサギ足で、ぱたぱたと。