シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


だから振り返らなかった。

振り返りたくもなかった。

その意思を見せつける為、背を向けたまま遠ざかる。


「――待て」


とられた腕を力一杯振り払い、あたしは無言でまた歩き始める。


「だから待て!!!」


後ろから抱きしめられた。

ぎゅっとあたしのお腹に、両手を組まれて。


「機嫌を直せ、小娘。

欲しいものを何でも買ってやるから。な?」


耳元で囁かれる…甘やかすようなその声は、少し震えていて。

まるであたしが一方的に拗ねたようなその物言いと、金品さえ与えればあたしの機嫌が直ると軽んじられていることに、更に心が冷えた。


今までどんな女達を相手にしてきたのか知らないけれど、あたしは金品でつられる女じゃない。


機嫌?

笑っちゃうよね。

そんな程度のものじゃないよ、この感情は。


あんたが居るだけで、あの"悪夢"が蘇る。

人として…してはならぬことを、あんたはしでかしたんだ。

そして…笑い続けていたじゃないか。


あたしは忘れない。

あの時の絶望、あの時の怒り。


あたしの中の…それまで親しんでいたあんたの像を、木っ端微塵に打ち砕いたのはあんた自身だ。


そしてあの時のことを思い出す度、ああなることを見抜けずにあんたと馴れ合っていたあたし自身を恥じている。


言ったはずだ、紫堂本家にて。

絶縁宣言を。


それまで、なかったことにするんじゃない!!


あたしは、冷えた呼吸を1つして言った。



「あたしから離れろ、久涅。

――汚らわしい」



後ろに居る久涅から…息を飲む気配を感じた。

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