シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「俺を拒むな」
掠れて発せられたその声音は、攻撃的な苛立ちを隠していない。
「お前には…勘違い…されたく…な…い」
それでも…消え入りそうなその言葉尻は、僅かに物悲しさを感じさせるけれど、それで揺らぐあたしではなく。
「違うんだ…」
どう違うのか、それを追及することすらしたいとも思わない。
久涅に対して興味を失っているあたしは、早く解放されたいのにまだ続きそうなことを嘆くばかりで、うんざりとした溜息を零す。
「俺の声を聞け!!!」
怒声と共にくるりと身体を反転させられたあたしに、真っ正面から、悲壮感漂う顔を近づけてきた久涅。
そこに居るのは久涅ではなく、裏世界だかに赴いたはずの紫堂櫂の気がして、思わず目を見開いてしまった。
「……っ。俺は…"あいつ"じゃない。どうしてまた、そんな目をする!!?」
あたしの様子から、何を思ったのか悟ったらしい…久涅の切れ長の目が、焦れたように細められたけれど。
その姿にまで、紫堂櫂の姿を重ね合わせてしまうあたしは、何でここまで紫堂櫂の面影を見出してしまうのか、自分自身よく判らない。
久涅と瓜二つの顔をしていると思ったことはあるけれど、その違いを積極的に追及する程、紫堂櫂のことはよく知らなかったし、知りたいとも思わなかったから。
だからあたしの中では、この端正な顔立ちは久涅の印象の方が強くて…無意識に2人の線引きがなされていた。
それが今、紫堂櫂の姿を思い浮かべてしまうのは、彼を泣かせて、"約束の地(カナン)"に置き去りにして、爆破を止めることが出来なかった…"罪悪感"、なんだろうか。
………。
紫堂櫂が生きているということを、久涅は知っているのだろうか。
もう…迂闊な反応は出来ない。
紫堂櫂の話題は避けねばいけない。
ばれてしまったら、今度こそ駄目だ。
「俺を…選べ」
あたしの双肩を掴んだ久涅の手に、ぐっと力が入った。
憔悴しているような思える端正な顔は、至って真剣で。
それ故に、ぞっとする程の鬼気迫るものがあった。
そして言ったんだ。
「お前は、玲になど満足しない。
お前は…自分で玲から離れるだろう」
思わず――
「あたしのことを知った顔で語らないで。あたしのことなど、何も知らないくせに」
反応したあたしは、久涅を睨み付けた。
「それくらい判るさ。
玲はお前を満たすことが出来ず、お前の心を手に入れられない」
イライラする。
「だけど俺は…お前の"願い"を叶えることが出来る。
お前を走らせることが出来る」
凄くイライラする。