シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



鮮烈な赤色。


ひらひら&ふりふりレースとふんわり生地が揺れる…

あれは真紅色のドレス。


真っ赤なハートが、うるさい程に刺繍されていて。



「ハートの女王…緋狭さんだ」



頭にはハートの赤い宝石が埋め込まれた王冠。

手には…ハートの飾りが付いた杖がある。


「ふふふふふふふ」


艶然と笑って俺達を見下ろす様は、

何処までも威圧的な…真っ赤な女王様。


いつも通り…なんだけどよ。


だけど決定的に違うのは――


「何だよ、あのふりふりドレスは!!!

しかも髪、くりくり縦巻きなんて…緋狭姉じゃねえ!!!」


俺は半分涙目で叫ぶ。


緋狭姉があんな"ぶりぶり"のドレス着て、"げろげろ"なお洒落するなんて。


俺の緋狭姉は、そんなんじゃねえ。

一升瓶片手に下ネタ連発するのが緋狭姉であって、オトメの緋狭姉なんて緋狭姉じゃねえ!!!


だからあれは――



「緋狭姉じゃねえええええ!!!」



地に降り立った緋狭姉は、まず俺の前に立つと…


ゴンッッ。


「!!!!?」


その杖を斜めに振り、俺の頭を思い切り叩いた。

杖の一番固い所で、容赦なく思い切りだ。


この潔い思い切りの良さは――


「緋狭姉しかねえええ!!!」



「ねえ紫堂櫂。ワンコ、何叫んでいるの?」

「視覚で拒み、触覚で受容して…混乱の極みだ」



「緋狭姉、生きて…「女王だ。無礼者」



飛びつこうとした俺に、飛んで来たのは殺伐とした…殺気。

俺は瞬間震え上がって、1歩…また1歩退いて、安全領域を確保する。


「ねえ、ワンコがあんなに怖がる"緋狭姉"って、そんなに怖いの?」

「煌は愛情を一身に浴びて育っているからな。まあさすがに緋狭さんも…ハートの女王のように、首を刎ねまではしないだろうが」


その時、遠くに弾き飛ばしたままだったチビリスの声がした。

デコピンで、軽く脳震盪でも起こしていたんだろうか。


「イチチチ。ああ、なんて暴力的なワンコだろう。ふん。僕からしたら、あの馬鹿犬は"M"だね。逃げたフリして、早く痛めつけて貰いたくて、構って貰いたくてうずうずしているんだ。やがてくる痛みという喜悦を夢見て、今から悶えて身体を熱くしているんだろう。僕はMの心なんて全く判らないね!!」



「ドMが詳細に何を言うかッッ!!!」



俺は遠くから、チビリスに怒鳴った。


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