シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


判っているよ。

これは緋狭姉じゃねえ。


右手…あるしな。


だからこそ、願ってしまう。

望んでしまう。


現存する真実の緋狭姉の姿を、虚構の姿に重ねて見てみたくなる。


――馬鹿犬が。


俺…Mじゃねえけれど。


だけど、緋狭姉にいつも通り弄って貰いてえ気がするのもまた事実。

何も心配することはねえんだって、安心したい気持ちは強いんだ。


僅かな可能性…俺達の記憶で、虚構の緋狭姉を真実のものと出来るのなら。

そんな希望が叶うというのなら。


還りたい、日常に。

皆で普通に笑いあっていた、あの毎日に…。


「ああ、そうだ。坊、ほら。勝利報酬だ」


緋狭姉が何処からか封筒を取出すと、櫂を手招きした。


封筒の色は紫色。


小猿が寄ってきて、俺に尋ねた。


「何で青色じゃないんだろ」

「ああ、多分……」


俺は予想した。


「緋狭姉が青い封筒を運びたくないと駄々を捏ねて、青色と赤色が入り混ざった紫色にした。そんなとこじゃねえか?」

「馬鹿犬も、中々冴えてるね。僕もそうだと思ったよ」


いつの間にか足元に移動していたチビは、腕組みをして偉そうに言う。

完全に探偵気取りだ。


「本当にそうか? お前…達者な口してるからな」

「僕は理知的で慎ましやかな性格なんだ。お前のように闇雲にワンワン吼えてるわけじゃないんだよ。失礼だねッッ!!!」


失礼だと言いながら、また俺の頭に飛び乗るのは…失礼にはならないのだろうか。

イマイチ、リスの考えはよく判らねえ。


目の前では、片膝をついて頭を深く垂らした櫂が、緋狭姉から恭(うやうや)しく封筒を受け取っている。


その従順な様を見て、女王様は満足気だ。

自尊心が満たされたらしい。


この面子の中で、女王様を上機嫌にさせる慇懃な態度を取れるのは、櫂しかいねえだろう。

櫂は何気にノリがいいし。


「せっかく…この姿にて、いつゲーム本編で呼ばれるかわくわくして待機しておったのに、お前はそうさせまいと姑息な手段をとりおって」

「…お心知らず、申し訳ございません」


女王様のお小言。そこは櫂が謝るトコか?


「アオは姿見せて、僅かなりともお前と戦うことが出来たというのに、私は表舞台に立つことすら出来ず、何もせず消え去るのみなどとは、許せぬ事態」


そして出て来たらしい、最後に。

ゲーム組み立て係の裏方さんは、さぞかし大変だっただろうな。


「この姿が…永遠ではなきことが、何とも虚しく儚きことよ」


憂えて嘆く女王様。


気に入っているのか、その姿!!!


赤いフリフリだぞ!!!?

髪はくるくるだぞ!!?

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