シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「はい。沢山の胡桃を頂きたく」

「胡桃ッッッ!!!」


過剰反応する奴が、俺の頭の上でぴょんぴょん跳ねている。


「ほう。何でも叶えると言っておるのに、お前が願うのは…この小さき生物が望む物か」


「はい。レイは…頑張ってくれました。俺は約束は果たさないといけない」


"約束"

義理堅い櫂の性分。


これは…玲の声をしていても、玲のような心を見せても、玲じゃねえだというのに。


存在すらおかしい不可思議な生き物で。

多分、この世界だから生きていられる珍妙な生物だと思っているくせに、それでもそんなものの為に仁義をきるのか。


「僕の胡桃はッッ!!!?」


こんな…求愛しか頭にねえ阿呆タレに。


「よいのだな?」

「はい」


そして緋狭姉は、何処からか…赤い袋を取出して、櫂に渡したんだ。


櫂がその袋の口を開ければ。

俺の頭から飛び降りたチビリスが、今度は櫂の腕の上に乗って、身を屈めるようにして櫂と一緒にじっくりと袋の中身を覘きこんだ。

頭を袋の中に突っ込み、代わりに持ち上げた尻の…ぴょんと立った見事な尻尾が、左右にふさふさと揺れている。


そして――


「胡桃、胡桃ッッ!!!

僕の求愛の胡桃がこんなに一杯ッッ!!!」


櫂の腕の上でぴょんぴょんと…

悦びのダンスをし始めた。


「ありがとう、ありがとう!!!!」


チビは何度も櫂に礼を言うと、櫂の了承も取らずに袋を強奪する。

そして体に不相応な大きい赤い袋を両手に持って、また俺の頭に飛び乗ってきた。


重ぇ……。

どれだけ胡桃貰ったよ…。


カリカリカリカリ…。


「……なあ、櫂」


カリカリカリカリ…。


「どうした?」


カリカリカリカリ…。


「上の奴、うっさいんだけど…」


俺は苛立って、目を細めた。


「そりゃあ…あれだけあればうるさくなるだろうよ。喜ぶ姿を見るのは気持ちが良いぞ? 何だか…玲が喜んでいるようだ」


櫂の目には、玲の姿が見えるのだろうか。


――玲くんが好きです。


あんな場面を見ても尚、それでも玲への愛情は失わねえ。

心中は嫉妬で荒れ狂っているはずなのに、それでも玲を案じている。


玲…判っているか?


櫂は…お前と断絶を望んではいねえ。

必ず合流して、今まで以上の結束を願っている。


お前と櫂は恋敵でありながらも…それで崩れる間柄じゃねえ。

無論、俺だってそうだ。


お前と過ごした幾年月。

それを無駄には絶対させやしねえ。


俺達は――…

ばらばらにはならねえからな。



だから――…


「走るぞ、煌、翠…レイ!!!」


首を長くして待ってろ。

再会出来る日を。

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