シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そして気づけば、再び橙色の髪の上。
手にしているのは…2リットルのポカリ。
「お前…何俺の頭上に重さ増やすよ!!!」
「煩いな。犬には血も涙も無いのか!!? 僕はね…体力消耗しているんだ。優先的に僕が飲むべきだろ?」
凄い…。
煌の頭上で小リスが…左手を腰に、反対側の小さな右手で…2リットルのポカリを持ち上げ、ゴクゴク音をたてて飲んでいる。
一気飲み。
見る見る間になくなっていく…半透明の白い液体。
何処に…消えるんだろう?
小さな…身体の中で。
「ぷは~ッッ。生き返った!!!」
カラン。
空のペットボトルが地面に投げ捨てられた。
空になるまで、僅か数秒のことだった。
「「「………」」」
誰もが唖然としている中、それまで押し黙っていた煌が、徐(おもむ)ろに手を上げてレイの首根を摘むと、目の前にぶら下げた。
「……下膨れリスから…
水膨れリスかよ…」
そう人差し指で…ぱんぱんに膨れあがったお腹を突いてみれば、
「やめろよ!!! "腹袋"が破裂しちゃうだろ!!? もっと小動物をいたわれよ!!!」
腹袋…なんてあったんだ…。
まんまるな体型のレイ。
本人だったら…嘆いて落ち込んでいるだろう。
玲はいつも何だかんだと、引き籠りによる運動不足での体脂肪率を気にして…こっそりと筋トレを励んでいるから。
芹霞の為にうまいものや甘いものを作るけれど、味見による規定カロリー超過は、自分で消費している。
しかし…玲は昔から太らない体質なはずで、取り越し苦労だとは思うけれど。
無論…レイのような体型にはなりえない。
「早く僕の"巣"に戻せよ。僕はカリカリしないといけないんだよ。げふっ…」
じたばたする動きも重そうだ。
「何が"巣"だ!!! 勝手に住処(すみか)にすんな!!」
そして煌は一度言葉を切り、重そうに"クロール"するレイをじっと見つめて、
「………。こうしていれば運動になって痩せるかな、こいつ…」
にやりと、煌は薄く笑った。
「やめろよ、やめろよ。僕を虐めるな…げふっ」
「お前…芹霞に頬叩かれて喜んでいた"ドM"じゃねえか。もっと喜べ?」
「酷い、酷い!!! 幼気(いたいけ)な僕を…げふっ」
「お前、何だよそのゲップ。出る瞬間、折角へこんだ頬が膨らんで、はちきれそうだぞ? 頬袋は伸びたままなのか?」
「僕のほっぺを抓るなよ!!! 痛い、痛…げふっ」
「おお、瞬間的に結構膨らむんだな。それに…涙…。涙がポカリなら…肥満が解消されるな。ほら、泣いてみろ?」
「泣いている僕に泣けなんて…酷い、酷…げふっ」
いつも勝手に頭に居座れている煌は、ここぞとばかりに逆襲しているようだが、何だかレイが気の毒に思えてきてしまった。