シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「煌…戻してやれ。レイは…俺達に代わって、恥をかいてくれたんだから」

「恥とはなんやねん、櫂はん!!!」


「仕方ねえな。…おい、チビデブ!!! 俺の頭の上で漏らすなよ!!? 2リットル分シタくなったら、速攻飛び降りれよ!!?」


「失敬だな!! 僕の何処がチビデブなんだよ!! それに美リスには、そういう"はしたない"ものは無縁なんだよ!!!」


頭の上に置かれた途端、レイはいつものように威張る。


牙城に戻れば、勇ましくなるものなのか。

何て人間臭い…リスなんだろう。


「怒りながら飛び跳ねるな!! 頭がぼっちゃんぼっちゃん煩えし、重いんだ!!」



「なあ紫堂櫂…俺、何処から突っ込むべき?」

「突っ込んでも…報われない気がするぞ」



パンパンパン。


その時、クマが手を叩いた。


「話を戻そう」


そう仕切るのはクマ…三沢玲央。


正直…俺はこの男は見定めることは出来ない。

情報屋と違った意味で、こちらの推測を拒む特異さがあり…それは時に、持ち前の豪快さで誤魔化される。

表情を観察しようとしても、毛で覆われたその顔に"表情"は読みにくい。


この…男臭い毛むくじゃらを取れば、玲にも通じる…女受けしそうな柔和な美形が現われると、誰が想像出来たろう。


その衝撃が強烈すぎて、"優男(やさおとこ)"時の詳細もまた…今の"山男"の姿態に上書きされつつあり、不明瞭な記憶となっている。


物理的な"毛むくじゃら"。

心情的な"美形"。


どちらもインパクトある"障壁"に隔てられて、心に残留し難い姿態の持ち主。

それ故に、この男はこういうものだと…明確にその輪郭を思い描けない。


それが隠れ蓑…心の壁の体現であるというのなら、この男もまた、触れられたくはない…闇の持ち主であるのだろうか。


氷皇が案内人に選ぶだけの男だ。

尚かつ裏世界に出入り出来ている事実を思っても、普通人ではないには違いない。


ただ…情報屋のような威圧感は感じられない。


纏う空気は…至って"普通"。

特別な力を持っているようにも見えない。


その普通さが更に…この男の輪郭を曖昧にさせる。


この男が持ち、氷皇が高く評価している"何か"。

それは普通ではないはずなのに、普通だとしか思えない印象。


そこがまた、特異な"異質さ"を感じずにはいられない。

結局は俺の思考は回旋するばかり。
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