シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
五皇の1人たる紅皇の導きだからと、言わば…鳴り物入りで此処まで進んできたけれど、考えて見れば…体術や術こそ緋狭さんは"最強"であっても、同じ五皇にとってみれば、立場は同格。
むしろ特例は、元老院たる氷皇だけ。
「櫂……」
煌が心配げな眼差しを向けている。
煌も感じ取ったのだろう。
クマから放たれたのは、ただの質問ではないことに。
クマは、情報屋…緑皇の代弁者。
その証拠に…情報屋の眼差しの鋭利さは格別だ。
五皇に通ずる…権威者の目。
絶対的立場に居る者が持ち得る王者の眼差し。
紅皇や…氷皇に連なる眼差し。
今までの軽薄さをがらりと変えられる空気。
動から静、静から動へと。
そのスイッチの在処を、外部に悟られることなく。
同じだ。
緋狭さんや氷皇と。
もはや…疑いようもない。
この情報屋は、緑皇だ。
そしてそれを隠す気がないということは、この情報屋の立場を五皇の必然的行動として捉えろと言われているような気がした。
………。
五皇…。
緋狭さんの力が及ぶのは、俺達を緑皇に引き渡すまで。
では緑皇の力が及ぶのは?
裏世界、もか?
それを考えていた時、思考に黒い影が横切った。
「久涅……」
俺の口から、忌まわしき名前が漏れる。
今何故あいつのことを思い出したのか判らず、気分が悪くなってしまったけれど…ふと、思ったんだ。
裏世界もが緑皇の領域だというのなら…
黒皇たる久涅の出入りはしっくりしないと。
紫堂本家から追い出された久涅の消息が掴めなかったのが、久涅が裏世界という特殊な閉鎖空間に居たという理由であるならば、そこに久涅が居れたのはどういう理由だ?
あいつ1人で行きつけたのか?
ありえない気がする。
誰かの…導きがあったと思うんだ。
そして。
久涅が黒皇だというのなら。
今の今までその情報が玲が掴めなかったというのなら。
黒皇になったのは裏世界だということで。
それも何年もの単位で裏世界に在住していた可能性がある。