シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

変化 玲Side

 玲Side
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稽古をつけて貰うにあたって、朱貴にまず言われた。


「稽古中は芹霞との接触は禁じる。邪念を捨てろ。それが嫌なら俺は帰る」


だから由香ちゃんに、芹霞が目覚めた時だけ連絡をくれるようにお願いした。

芹霞の体調を気にするのは僕だけではないからと、紫茉ちゃんが必死に朱貴を説得してくれたおかげもあって、それだけは許可が下りたんだ。


正直…あれだけの症状を引きおこして眠り続ける芹霞と、場所を違えることによって、もしもの急変を見逃すようなことはしたくはなかった。

更には氷皇に委ねられた薬を、朱貴の後押しもあり飲ませた。

せめて、傍に居る由香ちゃん達と密に連絡を取り合って、経過を把握していたかった。


――あの娘にはクオンがついている。クオンが体内に気を巡らせて、薬を飲んだ後の心臓を安定させている。傍に居るのがお前でなければならない理由はない。


芹霞にとって…特別な立ち位置に居るわけではないと言い切られた僕は、思わず櫂を思い出す。

櫂でなければ、芹霞の命を繋ぎ止められなかった…過去からの事実。

その"任務"は陽斗の心臓によって終了したはずなのに、またもや櫂は芹霞にとって特別な立ち位置になろうとしている事実。


その"代理"を務められるのは、"たかが"ネコで十分だとそう言われた僕の矜持は、屈辱と嫉妬にボロボロで。

それは恋人となった今でも、この立ち位置の脆さを証明しているようだった。


僕だけしかできない何かを見つけなければならない。

それは芹霞に限ったことではないけれど。


強くなりたい。

はっきりと結果を出したい。

口だけの男になりたくない。

皆に認められたい。


その願いはより強まり、僕はその強さを得る為に、無我夢中になって朱貴の稽古に励んだんだ。


まずは力の使い方。

まずは思い切り力を放出してみろと言われ、僕は少し躊躇(ためら)った。

この体育館に損傷を被ってしまう気がして。


――大丈夫だ。この場所は、俺が翠に術を教える時に利用する"特殊加工"だ。それに今回はあいつ…氷皇からも"最大"にて助力がある。珍しいことだが。


その意味はすぐ判った。


――そんなこの体育館を壊せるのなら、壊してみろ。


結界だ。

体育館にかけられている守護結界の強さが半端無く、僕程度ではその限界が何処までなのかを見極めることが出来ない程に。

つまり、朱貴と氷皇…2人の力が、強固に幾重にも折り重なって出来ている、言わば…体育館を模した結界という名の、別世界の中にいる感覚だ。
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