シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


紫茉ちゃんの体術の源流は…レディースの"喧嘩殺法"とは意外で。


――お前、周涅に引き取られる前に、そんなトコにいたのか!!? 周涅からも聞いてなかったぞ、俺は!!!


さすがの朱貴も煙草をぶっと吐き出して、かなり驚いていた。


――あれ、朱貴に言ってなかったっけ。面白い人達の集まりだった。髪の色が信号機の色で。ん…煌なら違和感ないかもな。


煌のオレンジは…天然だから。


今に至る綺麗な体術の基礎的な型は、周涅に整えられたのだろうけれど、敵に向かう度胸は…クレハさんとやらに鍛えられたのだろう。


その頃、朱貴との接触はなかったらしい。

高校に編入して、紫茉ちゃんは初めて翠と朱貴に出会ったらしいけれど、朱貴が身体を張ってまで紫茉ちゃんを想うのは、年月が短すぎる気もする。


まあ…愛に年月は関係ないとはいうけれど、一目惚れだの何だのありきたりの出会いで朱貴が惚れたとは…何だかしっくりこないんだ。


僕が芹霞が好きな事情とはまた違う、特殊な何かがある気がするけれど、朱貴が教えてなんかくれないだろうし。

紫茉ちゃんはボケボケだし。


何だかんだと朱貴は紫茉ちゃんに喧嘩腰で絡むけれど、こうした話を紫茉ちゃんから聞くのは…少し嬉しいらしい。顔つきが穏やかなんだ。


そうした個人的な話を、今までこの2人はしてこなかったんだろうか。

深く知り得ないで成り立つ朱貴の恋愛事情は、益々不可解だけれど。


それから―-

"クレハ"さん…。


その名を聞いた時に思い出したのは、崩壊した池袋のAPEXビルの洋服店。

芹霞に崩れたケーキをもってきて、尚芹霞を可愛くさせたのも、クレハという名前のチーフだった。

芹霞は黒い塔が出現して、あのビルが崩壊した際、彼女の安否不明な事実に、かなりショックを受けていたけれど…まさか同一人物だと言うことはありえないだろう。

あの店では彼女を皆が恐れていたようだったけれど、いくらなんでも、レディースあがりがあんな場所にいるはずはないだろうし。

可能性は0ではないにしても、もし同一人物だったら、それこそ芹霞と紫茉ちゃんの結びつきは、偶然とは思えない。


運命的にも思える。


嫉妬と感嘆半々の気分で紫茉ちゃんを眺めていたら、憎々しげに僕を睨み付けてくる朱貴の視線に気づいた。


「違う違う、考えていたのは芹霞のことだ!!!」


ぶんぶんと頭を横に振って、僕は質問されるより前に答えてしまう。
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