シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
紫茉ちゃんに対しては、態度として…艶も甘さも一切見せない精神愛(プラトニック)を突き通してきている朱貴。
「欲しいのなら…くれてやってもいいぞ? お前が…俺の子供を産みたいのなら」
それが欲に満ちた眼差しとなっただけで…思った以上に滲み出る大人の色気が半端無くて、それによって朱貴の整った輪郭を艶やかに彩り始め…、僕はその艶めいた男の顔に、思わず魅入ってしまった。
濡れ場に突入する場面に、心ならずとも立ち入ってしまったような、妙な罪悪感と羞恥心が僕の心を占めて。
「待って、そういうことは2人だけの時にしろよ!!!」
何で僕が赤くならないといけないんだよ?
「あ、ああ…。2人だけの時に、また…」
意味が判らないらしい紫茉ちゃんは、パチパチと瞬きをしていて半ば僕の言葉に流されたような形で。
それを見た朱貴は、大きな溜息をつくと同時に艶を消し、
ガコッ。
紫茉ちゃんの頭に、特大ゲンコツを落とした。
「な、ななな何でゲンコツ!!!」
「お前がくだらんことを聞くからだ!!! 何がコウノトリさんだ!!! 17歳になっているんだから、周涅の言うことがおかしいのくらいさっさと気付け、このド阿呆が!!!」
「え? え? 痛いってば!!!」
ん…これも愛情なんだろうな。
だけど、あまりにも不器用すぎる…。
思わずくすりと笑ったら、
「……やらんぞ」
紫茉ちゃんの頭に尚もゲンコツを落しながら、剣呑な目を寄越してくる。
早くこの2人、くっついてくれないかな…なんて微笑ましく思うくらいには、やはり身体と身体の対話というものは、精神的にも意味を持ったのだろう。
時間が経つにつれ、どうすれば朱貴を倒すことが出来るのか、紫茉ちゃんと相談して畳みかけて攻撃するまでの仲になった。
「良い度胸だな…」
そう目を細めて本気になった朱貴を見た時、僕も紫茉ちゃんも蒼白な顔になったけれど。
2人がかりでも、朱貴は倒せないのが現実。
そんな状態で稽古に明け暮れていた中、芹霞が目覚めたと由香ちゃんから連絡が来て。
それだけで僕の頭は芹霞一色になってしまう。
我ながら、その切り替えの速さに苦笑せざるをえない。
押さえ込んでいたものがとろとろと零れ落ちてくる感覚。
愛しい芹霞に会いたい。
元気な笑顔を見たい。
僕を呼ぶ声を聞きたい。
だけど――
「………っ」
今は駄目だ。