シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


追いかけようかとも思ったけれど、そうしたら僕が我慢してきたことが無駄になるから。

もう少しで終わる稽古なのに、最後の最後で朱貴に顔を背けられるのも嫌だ。


きちんとやることはやらないと駄目だ。

全てに中途半端で、芹霞にへらへらしているのは…男としても最低だ。


ぎゅっと拳に力を入れて、欲を押さえ込む。


体育館の窓から差込む光は明るくなっている。


稽古は永続的に続くモノではない。


もうそろそろ終焉が来て、僕は氷皇に言われた塾に行かねばならないだろう。

そしていつ来るか判らない青い紙の指示に従って、行方をくらませた桜を見つけなければならない。


時間は…有限だ。


櫂や煌はどれ程強くなったんだろう。

僕は…短期間でどれだけのものを吸収出来たのだろう。


こうした時間でもあいつらは頑張っている。

僕だって、負けて溜まるか!!


休憩に入った僕は、身体を休ませることよりも、少しでも技術を盗もうと…朱貴の動きを目に焼き付けようと躍起になった。


櫂の無駄のない動きにも似て、煌のキレある動きにも似ている…誰ものいいとこばかりを集めたようなその動きは、思わず見惚れてしまう程だ。

それでも、僕が見ている全てが朱貴の"本気"ではないだろう。

これは稽古用であり、朱貴は氷皇すら認める実力があるというのなら、これ以上の凄さを朱貴は秘めていることになる。


朱貴は…誰に師事したんだろう?

表面上仲がよくも思える周涅の形とも違うし、独学ではここまでの完成度にはならないはずだ。

師匠がいるとしたら、朱貴よりも強い人間が居ることになる。

例え緋狭さんや氷皇が最強ランクに居るとしても、それに近い処にも別の人間が座していることを忘れてはならない。

周涅もそう。

僕が戦った、BR001…銀色氷皇もそう。

凱と雅もそう。

久涅も、当主も、雄黄も。

暗躍している計都だって、その実力の程は推し量れない。

今の自分の力に慢心してはいけない。

向上心を持たねばいけない。


朱貴の動きは、見ているだけで勉強になる。

氷皇の言うとおり、ソノ気にさえなれば、学ぶ場所は…一秒一秒何処にでもあるんだ。

僕が身体を動かしていない間も、勉強は出来る。

紫茉ちゃんの動きだって、見ているだけでも勉強になっている。

様々な動きを取り入れて、僕も柔軟に対処出来るようにならねばならないと、そう思いながら、食い入るようにして…僕は朱貴と紫茉ちゃんの動きを追っていたんだ。

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