シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

そんな時、足元にある…大皿に盛られたおにぎりに気づいた。

差し入れだと判り、ありがたく頂こうとしたら…


「リス……」


下膨れリスのおにぎりがあった。

これを作ったのは…芹霞だろう。


芹霞は昔から、動物のおにぎりを作るのが好きだった。

櫂によく犬型を作っていたようだが、櫂が変貌してからは櫂が食べなくなってしまったと、ぼやいていたことがある。


羨ましかった。


櫂の為だけに握られたおにぎり。

櫂のことだけを想って作られたおにぎり。


いつか僕の為だけに作ってくれないか、なんて…淡く儚い希望を抱いていた僕。

その現実が訪れて…僕の心は烈しく躍る。


きび団子に続いて"愛情"が込められているのかな。

少しでも…僕達の間に、強まるものがあるのだと思いたい。


例え…皮肉めいた下膨れリス形だろうと、僕はそれを嫌味としては受け取れず、ただひたすら…僕専用に作ってくれた事実が嬉しくて溜まらなかった。


今はかなり空腹だから、がっついて直ぐ失いたくない。

こんなに凝って可愛く仕上げてくれたんだし、後で…ゆっくりゆっくり、幸せ噛みしめながら食べようか。


芹霞が作ってくれた、僕のおにぎり…。


紫茉ちゃんと朱貴も休憩に入り、おにぎりに手を伸したけれど、僕に遠慮してリスのものだけは食べないでくれた。

彼らは、並べば輝度が相乗する…美男美女。

特に朱貴に関しては、成人したての僕には羨ましいくらい…大人の"男"の美しさがある。

例え紫茉ちゃんに向ける態度に理不尽さが多々あろうとも、そこに一途な愛情があるのだと思えば、とても微笑ましくて。

何だか朱貴を応援したくなる気がする。

早く紫茉ちゃんも、朱貴の想いに気づくといいな。


2人に対して親近感を強め、和やかに傍観していた僕は、それを覗き見ていた芹霞が、暗く捉えていることに気づかなかった。

いや、芹霞の状況そのものを…僕は見くびっていたんだ。


結界が厳重だから外部からは誰も侵入できない、例え忍び込んだとしても、気配で察知出来る…、そう慢心にも似た先入観があった僕には、第六感で捉えられないモノが存在する可能性を、無意識に排除していたんだ。


それは、クオンを芹霞の守護としていた朱貴も同じく。


朱貴には"異変"の兆候は感じていたと思う。

何度か首を傾げて、体育館から出て行ったことがあったから。

しかしそれを"異常"と判断するには至らなかった。


つまり――

朱貴の力をもってしても、僕達の気配探知能力は…"無効化"の前では、役に立たなかったんだ。

それじゃなくても、気配を殺して忍び込める存在であったのだから。

氷皇、緋狭さんと同じく――。


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