シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「僕と君が駄目になる時は…僕が他に目移りしたり君に飽きたとかではないよ。君が僕を捨てる時だけだ」
――だからお前の心は…"足手纏い"の玲を弾くだろう。
不意に聞こえてきた久涅の声に、あたしは顔を歪ませる。
「玲くんは…足手纏いなんかじゃない…。満足してるもの…あたし玲くん好きだもの。離れないよ…あたしからなんか」
忌まわしい声を振り切りたいから、小さく小さく呟いた。
「芹霞……」
両腕を掴む玲くんの手に、ぐっと力が籠もった。
「久涅に言われたの?」
笑みを消した…そこには怖いくらいの端麗な顔があって。
「………。だから、僕より久涅を選べって?」
お見通しの玲くん。
そして…静かに言った。
「櫂の立ち位置に…久涅を立たせろって?」
どうして判るんだろう、玲くん…。
「煌ならまだしも…紫堂くんの立ち位置っていうの、おかしいよね」
空笑いをしたあたしに、
「まだ言われたね?」
鳶色の目は剣呑に細められた。
そこには有無を言わせない強い光があり…あたしは、心に刺さっていた言葉を口にすることにした。
あれは計都と共に去る間際のこと。
「"刻が来るまでに、お前を貰いうける。今はせいぜい櫂の代理として、同情する玲とどこまでもプラトニックで安全圏な「好きごっこ」で遊んでいるんだな"…って言われたの」
久涅が何であたしに執着を見せるのか判らないけれど、そうした宣言よりもまず、煌より長い幼馴染だという、記憶ない紫堂くんを引き合いに出されたことに、あたしの思考が乱された。
玲くんとの本気のお付き合いを"ままごと"のように言われた事に対する腹立たしさは勿論あったけれど、妙な焦慮感に苛まれ…久涅のその台詞がやけに心に焼き付いて。
紫堂くんの代理?
「好きごっこ」って何?
馬鹿にするなと言い返せなかったあの時。
あたしが反撃出来なかった理由は何処にあったのか。
そんなことをぐだぐだ考えていた処、玲くんに担がれてきてしまうことになったわけだけれど。
バアンッッ!!
突然の爆発音に吃驚すれば、この部屋の中の硝子という硝子が弾け飛んでいた。
それを教えようにも…怖い顔をして荒い息を繰り返す玲くん自身が引きおこしていることだと判ったから、あたしはただ見ているしかできなくて。
怒っているんだ。
玲くんは…表情を見せる代わりに、力で感情を爆発させているんだ。