シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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目覚めた時、隣に居たのは…無防備なあどけなさを見せる端麗な顔ではなく、パーツが分厚いお肉に埋もれたような…インパクトのある顔で。


「ひっ!!!?」


思わず飛び起きてしまえば…


「おはようございます、嬢ちゃま」


首をちょこんと前に動かして、お辞儀をしたんだろう…百合絵さんであることに気づいた。

心臓に悪い…。


「隣室で、坊ちゃまが出かけられる支度をされているので、私が代わりに起こしに参りました」

「あ、ありがとう…」


どすどすとドアに赴いた百合絵さんは、ぴたりと足を止めると…あたしの方を振り返り、


「ふごっ」


まるで豚が鼻で鳴くような音を立てた。

それが何を意味しているのか判らないあたしがきょとんとしていたら、


「ふごっ」


もう一発。

そして彼女は言った。


「既成事実、おめでとうございます、ふごっ」


………。

キセイジジツ?


「ふごっ」


………。


「既成事実!!!? 違うよ、ただ一緒に眠っただけだって!!!」


ようやく正しい意味に脳内変換したあたしが騒げば、百合絵さんは、


「そうなんですか? 坊ちゃまの顔の色艶がいいので、てっきり…ぷふ~」

少ししょげてしまったようで。


あたしが推測するに、百合絵さんから聞こえる"ふごっ"という音は…由香ちゃんがよく言う"むふふふふ~"に相当する音だろう。


「百合絵さんは…玲くんが好きなんだね」


玲くんの喜びを自分のことのように感じているから。

ある意味それは、由香ちゃんのようなモノで。

恋愛よりも深い処で、信頼という関係で結ばれている気がする。


玲くんは百合絵さんを恋愛対象ではないと言い切っていたけれど、百合絵さん自身はどうなんだろうか。

主従を超えた愛はあるのだろうか。


「嬢ちゃまが仰っているのが"恋愛"という意味なら、それは違います」


百合絵さんが断言したのは、多分…あたしを惑わせないようにするため。

そんな気がした。


「恐れ多くも…坊ちゃまは…我が子のような気がして…」


確かに、母性本能が擽られるタイプだよな、玲くんは。

玲くん自身は強いのに、纏う儚げな空気が…庇護欲をそそるんだ。


百合絵さんも女性なんだから、母性本能はあるはずだしね。
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