シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「子供が死んだショックで、それからは荒んだ生活をしていた処、少しだけふくよかな体型になりました。あ、旦那とは離婚しています。ぷふ~」
少しだけ…処の話じゃないし、ふくよか…レベルじゃないよ、百合絵さん。
荒んで過食症になったんだろうか。
離婚した直接の起因は子供を亡くしたことだろうけれど、ここまでになる前に…元旦那様も止めようよ…。
「私は紫堂警護団の前団長…今の団長のお父様に拾われて紫堂に入りました。その頃から坊ちゃまを見ておりますので、辛い思いをされ続けてこられた坊ちゃまが幸せになることを、願っています。ずごっ」
そして百合絵さんは苦労しながら、ペンダントを戻した首元のボタンを留めた。
中々の過去をお持ちの、玲くんのメイドさん。
玲くんは、そのことを知っているんだろうか。
その時ノックの音が聞こえれば、開かれたドアから顔を覘かせたのは由香ちゃんで。
「一度集まろうよ~」
そう言って迎えに来たから、あたし達は第二保健室に戻った。
そこには――
「……あれ? 誰か居る?」
窓を眺めるように、黒髪をお下げにして黒縁眼鏡をかけた、桜華の制服を着た女生徒が佇んでいて。
「あ、芹霞…おはよう」
玲くんか!!
スカートを翻し、にっこりとこちらに微笑むその様に、心を射貫かれたような気がする。
ああ…美少女過ぎる玲くんの女装。
「また僕、女装なんだって」
少し拗ねるその様も、薄倖の地味子の格好を超えた美しさがあって。
偽装は真実には敵わないんだろうか。
男でも女でも、やっぱり玲くんは綺麗で。
やばい、何このときめき。
さっきまで、男の玲くんにドキドキしていたのに…今度は女の玲くんにドキドキ始めてしまった。
「さすがはミス桜華だよね、師匠~。自警団がうようよしていなければ、絶対女でもモテモテ人生だよ? むふふふふふ~」
「大勢に好かれたって意味ないよ。僕はたった1人に好かれる方がいい」
眼鏡越し、鳶色の瞳があたしに向いた。
もうそれだけで、"玲お姉様"に流し目されたようで、その魅力にくらくらだ。
「………。僕、男の格好で行きたいんだけど!!」
「無理だよ、師匠~。女装指示は氷皇なんだろう? あはははは~って、"3倍"にされたらどうするのさ」
「それだけは嫌だ!!」
………。
玲くんの女装は何度か目にしたことがある。
昔も今も、どんなタイプの女装でも完璧な美少女装う玲くんだけれど…、だけど何だろうね、違和感…みたいなものを感じてしまうのは。
ほんの少しの…微妙な感覚なんだけれど。