シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
2人の会話に氷皇という単語が出ていたのを思い出したあたしは、思わず尋ねた。
「ねえ、玲くんの女装は蒼生ちゃんの指示なの?」
確かに玲くん自ら進んで女装していたら、それはそれで問題だ。
誰かの指示があって然るべき。
「そう。朱貴が言うにはね。何だか彼…事前に色々指示受けているみたいで、師匠の名入の制服があることといい、用意周到なんだ。だけど"その時"がこないと語らない。まるで氷皇の手紙のような感じだよ」
「その紅皇サンは何処に?」
「あっちで仮眠中」
由香ちゃんが指をさしたのは、見逃してしまいそうな…奥のドア。
「あ、そういえば紫茉ちゃんは?」
「同じくあっちで仮眠中」
………。
紅皇サンもあっち。
紫茉ちゃんもあっち。
密室で仮眠中…。
「それは頂けない!!! 嫁入り前の娘が、男の人と2人で寝るなんて!!!」
あたしは憤然とドアに向かう。
「どこのオヤジだよ、神崎。だいだい神崎だって師匠と…おい、絶対開けるなって朱貴に言われてるんだ、駄目だって、開けちゃ…」
ガチャッ。
「「………」」
後ろから玲くんもひょっこり覗き込む。
そこには…大きな大きなふかふかそうな高級ベッドがあり。
その上には…乱れた服装にて、汗を掻いて眠る紫茉ちゃんと、荒い息を繰り返す紅皇サンが居て。
「開けるな…と…言ったは…ずだ」
憎々しげな声だけが向けられる。
再度よくベッドの上を見た。
もっともっとよく観察した。
頬にべっとりと…解けた黒髪をはりつかせ、汗を掻いて苦しげに眠る紫茉ちゃんの胸元は、はだけている。
隣には…紅皇サンが荒い呼吸を繰り返し、汗ばんだ煉瓦色の髪は乱れていて。
ぐちゃぐちゃになったベッドシーツに、2人は横たわっている。
烈しい…"何か"があったことは一目瞭然のこと。
何、この状況は。
「紫茉の…治療中だ。邪魔……だ」
治療でどうしてそんなに息が切れているの?
何でそこまで疲れた顔をしているの?
………。
そんな時、玲くんがつかつか前に進み出て。
「……そうなるのか、いつも」
固い声を発したんだ。