シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そして、ベッドから起き上がれないらしい紅皇サンの近くに赴くと、身を屈むようにして、紅皇サンの胸の上に手を翳したんだ。
「いら…ん。クオ…ンで…十分…はぁっ」
悩ましげな息遣いで言葉を切る紅皇サンは、玲くんの手を振り払うだけの力もないらしい。
気怠げに顔をしかめた。
「クオン? あれ、クオンは……」
ベッドの下で、仰向けになって伸びていた。
あのすました美ネコが、無防備な"ひらき"だ。
慌てて由香ちゃんとクオンの元に行けば…生きてはいるけれど、やはり朱貴同様、凄く呼吸が荒くて…明らかに疲労度が半端なく。
見事なふさふさな毛並みも、何だか元気がなくくすんで見える。
触手のような尻尾も今は撓垂れたまま。
何、一体何!!?
男と女とネコで、一体何をしていたの!!?
「玲…いいから…行け」
紅皇サンは声を出すのも辛そうだ。
「朱貴には少しでも回復する力が必要だろう? 何でこんな無茶なやり方しているんだよ。紫茉ちゃんに…ここまで力を注ぎ込んで治療するなんて」
力?
「逆に言えば…朱貴がそこまでしないと、紫茉ちゃんは回復出来ないのか? 熱による発作状況から」
返る言葉はなく。
「そして今回、クオンの力をもって…何とかなった状態だ。なんで彼女、ここまでの力を必要とするんだ? 普通の…身体じゃないのか?」
やはり沈黙は続くだけ。
「まあいいさ、今は…僕に回復結界の力を強める方法を教えて貰っていたことに感謝しながら、僕の気を注ぐ。拒まないでくれ。それくらいさせてくれよ」
溜息をついた玲くんが発光する。
透明な綺麗な青い光は…電気の力を使う時のよう。
だけどそれより瑞々しく、それより純な色合いで。
変わった、と思う。
こんな短期間で、玲くんは…前に進んだ。
目に見える変化の一端を、確かにあたしは目にしていた。
格好は何処までも儚げな美少女で。
だけで醸す空気は、頼り甲斐がある男のもので。
あたしが、ぐだぐだ考えている間に、玲くんは…力を手にしていたのか。
誇らしい反面悔しい。
置いてけぼりをくらったようで、寂しくもあって。
だからあたしは――
「やばいな…師匠の女装。失敗だったかも」
隣で由香ちゃんが呟いたその言葉は、耳に入ってこなかった。