シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ふふふ、それはいいね。ふさふさなくなっても美猫なのかな? そのご自慢のふさふさなくなったらもう…"寂しがり屋"の芹霞に巻き付けなくなっちゃうね。いいよいいよ、僕が芹霞の心に巻き付くからね、しっかりと。ふふふふ。百合絵さん、第一保健室でどうぞゆっくり」
「判りました、坊ちゃま。坊ちゃまはどうぞお話を。ぷふ~」
「フギャーッッッ!!!」
やけに棘がある言葉を口にする、黒い笑みを浮かべた玲くんから手渡されたクオンは、百合絵さんにその首根をむんずと掴まれて。
どすどすどす…。
「フギャーッッッ!!!!」
宙でじたばたしても、助ける者はなく。
紫茉ちゃんも荒ぶる百合絵さんの迫力に呑み込まれ、紅皇サンは背を向けていて。
玲くんはにっこり微笑み、由香ちゃんは気の毒そうな顔を向けるのみ。
そして――
バタン。
無情にドアは閉められた。
………。
クオン。
ふさふさ…消えてもまた生えるから。
本当はあのふさふさ刈られたらあたしも嫌だけれど、それやめたら…肉料理にされちゃうんだぞ?
………。
羊が頭から下の毛を刈られたような、あんな貧相な格好になるんだろうか。
ちょっと…見たくないけれど、お肉になるよりはいいと思う。
どんまい、クオン?
「さて、これからのことなんだけれど…」
何事もなかったように、玲くんが言った。
「僕はこれから、氷皇の言った塾に行く。パンフレットには住所は記載されていないし、ネットにも情報はない。場所は紫茉ちゃんに訊けと言われたけれど…」
玲くんがビニールシートの片隅に置かれていたパンフレットを見せて簡単に事のあらましを伝えると、紫茉ちゃんは困った顔をして。
「この案内パンフレットに見覚えがあるな。これは多分…先輩が行っていた、あの塾だろう。実際は特待生として、別の場所に移されたはずだけど……。すまないが、玲。あたしは住所は知らないんだ」
何と。
蒼生ちゃんの見込み違い?
それにしても住所がないパンフレットってあるんだ。
何の為に作られたんだろう。
「あたしは知らないが、知っている奴なら2人知っている。1人は、その入塾テストで特待生になったという先輩。だけど彼女は見えなくなってしまったから…」
そう言えば、以前そんなことを聞いたことがある。
紫茉ちゃんだけが突然見えなくなってしまった女の先輩が居ると。