シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「もう1人は晴香(はるか)だ。先輩を勧誘したのも元々は晴香だからあいつなら場所を知っている。今、連絡してみる」

そして行動派の紫茉ちゃんは携帯を取出して操作すると、

「……あの"晴香"相手なら、俺はシャワーを浴びてくる」


紅皇サンは部屋から出て行ってしまった。

電話で話すの、そんなに時間がかからないと思うけれど…。


「よし、此処からこれを呼び出して…ん。ようやく使い方が慣れたばかりだから、もちゃもちゃして御免な」


ちらりと見えてしまったけれど、紫茉ちゃんの電話帳って…"周涅"、"翠"、"晴香"、"芹霞"、"由香"だけ?

紅皇サンはないの?


「朱貴は…呼んでもいないのに、もう傍に居るから電話なんか必要ないんだよ。翠があたしに懐いて同居するようになってからは、特に。それにあたしの知らぬ間に、電話帳を消すんだよ、朱貴。折角出来た男友達から貰った電話番号やメルアド、何十人消されたことか。玲のも消されてしまったよ。何なんだろうな、あいつ…」

苦笑する紫茉ちゃん。


………。

何だろう…今、妙な既視感感じた。

あたしも誰かに、電話帳を消された気が。

しかも男ばかり。

うん……?


「あ…晴香? あ…うんうん。……その件は後で。え? あ…ん、だからちょっと急ぐことがあって……あ、だからその件は…え? ああ、だから…なあ、あ……う、うん…まあそうだけど…それは後で…」


紫茉ちゃんが辟易しているようだ。

電話の相手は何を言っているのだろう。


「だから…ちょっとお前に聞きたいことが…ああ、ん…そうだけれど、その前に……いやだから…」


ずっとこんな調子で、5分は経ってしまった。

紅皇サンがシャワーに行った理由が判る気がする。

いつもこうなんだろう、紫茉ちゃんと晴香ちゃんの電話。


その時、電話を取り上げたのは玲くんで。


「晴香さん? 初めまして。私、少し前に桜華学園にお世話になった紫堂玲といいます。え…? あ、ご存じなんですか? 恥ずかしい…」


やだ…何この可愛く楚々として話す生き物。

甲高い声調でも、女のものとして作った声でもない自然なものなのに、目を瞑れば女の子の声としか思えないこの不思議。

媚びたものとは違う、上品な玲くんの物言いが、一種の催眠術のように、あたしの聴覚からくる思考を作り替えているようだ。
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