シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「朱貴が居れば安心だし…じゃあ桜のことは、紫茉ちゃんに頼もうか。とりあえず僕達は塾に行って、手続きが終わったら電話するから、そうしたらまた合流しよう」

紫茉ちゃんは頷いた。


「百合絵さんはちょっとお願いしたいことがあるし…これで3つの方向に分かれたね」


そう玲くんが言うけれど、


「あたしは?」


何も聞かれていないし、何も言われていない。

玲くんは塾行くだけで後で合流出来るし、桜ちゃんが心配だから、あたし…紫茉ちゃんと一緒に居ようかな。

神崎家の近くに居るというのなら、我が家の現状を確認出来るし。

やはり長い間の放置はいただけないでしょう。


だけど――


「勿論、僕と一緒」


麗しの玲ちゃんはにっこりと微笑む。


「あ…でも桜ちゃん…」

「ん……?」

「あたしの家の付近に桜ちゃんが居るなら…」

「ん……?」


そして玲くんはあたしの耳元に囁く。


「あんなに可愛い声で啼いたのに、僕と離れていたいの? もっと…離れられないような凄いこと、する?」


………。

思い出した。

あたし…、あたし……!!!

胸の傷から、燃えるように熱い…疼きを感じた。


「僕の唇には…君の感触が残っているよ? 甘露のような君の感触」


耳元で必要以上大きいリップ音が聞こえてきた。


「鼻血に"逃げる"のは駄目だからね? だけどまあ…僕とお風呂入りたいのなら、仕方が無いけど。洗うだけじゃ…我慢出来なくなったら、ごめんね?」


そう、そっとあたしの手を摩れば。


くらり。


「わわわ、神崎が、神崎が!!!」

「大丈夫だよ、由香ちゃん。芹霞はのぼせちゃっただけだから。よし、芹霞は僕達の組決定」



バアアアン。


派手な音と共にドアから入ってきたのは、


「フギャーッッッ!!!」


クオンで。


まだ健在のふさふさを揺らして、紅皇サンの肩に飛び乗った。

心ナシか震えて…紅皇サンの首に抱きついている。

ネコのプライドも何もかも捨てて、後からどすどすと入ってきた百合絵さんを恐れているようで。


「待て!!」


百合絵さんを制したのは紅皇サン。


「さっきは気づかなかったが、クオン…」


彼はクオンの鼻の頭を指で撫でた。


「甘い匂いは勘違いではなかったか。何を…つけられた?」
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