シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
紅皇サンは濃灰の瞳を細めて自分のその指を見ていたが、そのままあたしに視線を移すと、指で呼び寄せる。
「え? 何?」
そしてあたしの服の一部を、やはり指でなぞって難しい顔をする。
「来たのか」
無表情で紡がれたその言葉。
その意味する処は、誰に向けられたものだったのか。
「破れた結界。それを繋ぐ偽装を施して…守護たるクオンは、一時お前から離れたな?」
濃灰色がまたもやあたしに向けば、怖いくらいに…射竦められてしまった。
「開けるなと言い置いたのに、窓を開けたな?」
確かに、由香ちゃんから開けるなとは言われていた。
「子供が…外に居て。それで…窓を。そしてクオンは、その子を追って外に…」
言い訳のように、しどろもどろそう口にすれば、紅皇サンは鋭い光を瞳に横切らせて。
「マスターまで、今度は直々にご登場か。そこに来たな、ディレクターが…久涅を引き連れて」
計都が…久涅を連れてきたの?
逆のような気がしたんだけれど。
紅皇サンは、クオンの鼻を撫でた指を一瞥した。
「一瞬…俺の結界が揺らいだ時、偽装(フェイク)のものに切り換えられたか。だからわざわざ3人で来たのか」
あたしは何で"だから"なのか判らなかったけれど。
「その粉は…なんだ?」
僕が玲くんが聞けば。
「鱗粉」
表情を変えずに紅皇サンは答えた。
「黄色い蝶の…鱗粉だ」
黄色い蝶の!!?
「あたし、黄色い蝶なんて遭遇してないよ!!?」
「……。お前は魅入られて、何日目になる?」
紅皇サンがあたしに聞いてくる。
「魅入られるって…?」
「通行料を払ったんだろう? 黄色い外套男に」
どくん。
「10日目、かな…」
由香ちゃんが指折り、代わりに答えてくれた。
「あの時…。榊の目が抉られた初日、芹霞は言ったね」
玲くんの声が聞こえてくる。
――……蝶々が…黄色い外套を纏った奴になって…
――笑いながら"通行料"を貰うって…"心"を頂くって…。
「榊の目は…抉られたまま、現在消息不明。黄色い外套男に関しては、この時の男とそれ以降の男が同一だという確証はない。この後、目撃するのは渋谷。それ以降…外套男は何も喋ることもない。
通行料というのは…目を抉ることではなく…」
――笑いながら"通行料"を貰うって…"心"を頂くって…。
「心……」
あたしの呟きに、玲くんは固い顔をして同調する。