シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「……煌」


櫂が苦笑した。


「少しは…情報屋の言葉、聞いてやれ。何だか…不憫だ」


「あ? 何か言ってたか、アホハット?」

「俺は聞いてないぞ、ワンコ」

「ほら。櫂の空耳じゃねえか?」


「…櫂はん…だけや、ひーちゃんを…受けいれてくれるのは」


そう、情報屋がわざとらしく櫂に…よよよとしなだれかけた時。


「情報屋。"受入れる"ということは…俺の言葉が正解だと、思って良いのか?」


腕組みをした櫂が、静かに言った。


「お前は緑皇で…紅皇との約束により、俺を…裏世界に至るまでのお前の領域に連れ込み、裏世界に入る資格があるかどうか試していた。どうだ?」


アホハットは…にやりと笑った。


「一部…正解」


櫂の片眉が跳ね上がった。


「一部? 何処が違う?」


「俺は…緑皇ではない」


アホハットの口調が変わった。


途端に…押し潰されそうなこの威圧感は何だ。

なんだこいつは…。



「違うと?」


「ああ。


厳密に言えば――…

"今は"違う」



「"今は"ということは…

"元"緑皇だということか?」



「正解」


アホハットが淡々と答えた。


やっぱ五皇だったのか、こいつ!!


「しかし…。現行の五皇は…白皇を抜かして、4人いるはずだ。3人になったとは聞いていないぞ?」


「対外的には」


櫂は目を細めてアホハットを見ている。


何だろうこの緊張感。

姿態はアホハットのものだというのに、中身がまるで別人に入れ替わった錯覚を覚える。


言うなればこれは――

酷薄スイッチが入った、氷皇のようだ。


これだけの圧感であれば、

五皇の可能性は信じられる。


それくらい、強大で…特殊な空気なんだ。


「緑皇職を降りていることは…氷皇と紅皇しか知らない。他の元老院は知らないだろう。判らせないようにしているはずだ、氷皇が」


櫂は押し黙った。


「なあ五皇って、簡単に降りれるものか? 役目放棄していいのか? 元老院を護る…」


思わず口を出してしまった俺に、



「これは…"五皇の履行"だ」



アホハットは…

冷ややかな眼差しを俺に向けた。


それは俺に対してというより…

元々アホハットがそういう男なのかもしれねえ。


言うなれば、氷皇と同じ側の人間。


心が…壊れた男…。

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