シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
櫂が黙り込んで、深刻そうな顔をして考え込んでいる。
だから俺もしかめっ面で、腕を組みながら、口元を吊り上げて薄い笑い浮かべるアホハットを見つめた。
人相まで変わってやがるよ、こいつ。
本当に氷皇みたいに、残虐めいた鬼畜の顔。
それでも氷皇までは、嗜虐さはない気はするけれど。
それに…納得いかないのはその顔立ちだ。
アホばかり言ってた時は、ただのおちゃらけたチャラ男にしか見えなかったのに、五皇の顔をすると…何でこんなに変わっちまう?
認めるしかねえだろうが。
氷皇といい緋狭姉といい…白皇は年寄りだったけれど若い頃はさぞかしだろうし、久涅だって…原型は櫂の顔。
だったら、アホハットもまた…極上の顔立ち集団の1人だと。
この…似非(えせ)関西人もどきを振る舞っていた男がよ!!
そんな男が口にしたのは"黄"。
俺の脳は、"黄色"のことだと断言する。
だけどそこまでしか、俺の頭は働かねえ。
何だよ、黄色。
どんな意味あるよ、黄色。
俺の脳裏に過ぎるのは――
仮面を被った黄色い外套男。
だけどなんかしっくりこねえんだ。
俺の直感は、外套男じゃねえと言っている。
じゃあ"黄"は何だ?
此の世には黄色に溢れている。
だから黄色が一体何よ、黄色は一体何様よ!!
誰か、黄色を俺に教えてくれ!!
「なあ…ワンコ…」
小猿が俺の袖を引いた。
「シリアスな場面悪いけど、聖の言う…"黄"って何?」
俺の頭は小猿レベル。
初期に躓(つまづ)き、その先を考えているだろう櫂には到底追いつかねえ。
「小猿」
俺は答えた。
しかめっ面で。
「それが何か、今まさに考えていた処だ」
ちょっとばかし、年上の威厳を見せてやった。
「馬鹿だね…この犬」
頭上から、蔑んだような声が降ってきた。
今までカリカリ中断して寝そべっていたらしい…ぐでっとした感触が頭にある。
人の頭の上で、優雅でいいご身分のリスだ。
「俺を馬鹿だというのなら、お前には判るのかよ」
ぼちゃん。
玲リスが起き上がったみてえだ。
何だか…無性に重い水風船頭に乗っけている感覚。
少し動いただけで凄い震動。
どれだけ水太りしたよ?
「簡単じゃないか。今の話の流れからすれば…」
勿体ぶりながら、チビリスは言った。
「五皇って奴だろ」
俺は鼻で笑った。
「自信満々な処悪いけどよ、五皇っていうのは、赤の紅皇、白の白皇、青の氷皇、黒の黒皇、それで緑の緑皇の5人のことだ。黄色は居ねえんだよ」
ぼちゃん。
飛び跳ねたようだ。
「え? 居ないの? 黄色い五皇は」
櫂は、少し焦ったようなチビの声に…難しい顔を上げた。
「居ない…こともない」
「あ?」
「"黄"を黄皇とすれば…
"前"の五皇が1人」
櫂の声は低く、神妙さを漂わせていた。