シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「五皇は…ただ"選ばれた"だけの仲。他の五皇の為に心を砕く、そんな感傷的な心は持ち合わせていない」
俺は、アホハットの胸倉を掴んだ。
「それはお前や氷皇、久涅だけだろ!!? 緋狭姉は違う。緋狭姉は!!!」
緋狭姉は――
「俺を救った!!! 俺だけじゃねえよ、櫂も玲も桜も芹霞も…体張って、ずっとずっと…救い続けてくれてるんだよ!!! 緋狭姉を非情みてえに言うな!!!」
俺にとっては、生涯頭が上がらねえ…神の人なんだ。
――如月煌と名づけよう。
緋狭姉が、俺を人間として生かしてくれたんだ。
一生、俺の尊敬する師匠なんだ。
「だから皆!!! 久遠すら!!! 緋狭姉を助けようと必死じゃねえか。そんな緋狭姉を窮地に追い詰めたのは誰よ!!? 背中を突き刺したのは誰だ!!?」
緋狭姉が刺されて…沈んでいった、あの場面を思い出す。
意識的に考えないようにとしていた、抑圧してきた怒りが沸き起こる。
例え事前にアホハットと示し合わせていたとしても、俺の目の前で…最強の紅皇が崩れたんだ。
しかも…俺達を救おうとしてだ。
ああ――…。
激情が体の奥底から、駆け上ってくる。
泣きたいのか怒りたいのかよく判らねえけれど、語彙力のねえ俺は、それら全ては言葉には出来ねえ。
それがもどかしくてたまらねえけれど。
俺が言いたいのはただ1つだけ。
「緋狭姉だけは、
――愚弄するな!!!」
それだけだ。
緋狭姉を、汚すのは赦さねえ。
黙って見過ごすことが出来る程、俺は大人でもねえし、出来た人間ではねえから。
黙らないのなら、渾身の力で黙らせてやる覚悟で。
例えそれが、五皇の力を持つ…俺より遙かに強大な相手だろうと。
俺は威嚇のように、余裕めいて冷笑するアホハットに唸った。
その時――
「煌」
すっと…黒い影が俺の横に出来て。
「鎮めろ」
櫂が、俺の肩を抱く。