シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
抱くその櫂の手も、僅かに震えていて。
その震えから、俺も感じ取る。
櫂も同じ心だということ。
同じ激情を心に抱いているということ。
8年前――
緋狭姉は、櫂の挽回のチャンスを作る為に…片腕を自ら切り落とした。
そして紅皇職を退いた。
櫂は…――
緋狭姉のおかげで、芹霞を救えた。
緋狭姉のおかげで、ここまで強くなった。
櫂の人生をを変えたのは、緋狭姉だ。
櫂は、緋狭姉を慕っている。
その櫂が、緋狭姉を"非情"扱いされて何とも思わねえはずはねえんだ。
潔く、そして慈悲深い紅皇。
最強といわれた唯一の女性。
――煌。坊を守る護衛役につけ。
そして俺達を巡り合わせたのも緋狭姉だ。
俺達の心の中は、赤の賛歌に満ちている。
俺達は…緋狭姉を、紅皇を…敬愛しているんだ。
だけど。
「煌、此処は…押さえろ」
その櫂がそういうのなら。
俺は櫂の為に鎮めなきゃなんねえよな。
判る。
腐っても…アホハットは五皇だった男だ。
しかも、緋狭姉が"裏世界"の案内に託した男だ。
俺達は…どんなことでも、この男に追従しないといけねえ。
それは、俺だって判るんだ。
だけど…俺は短気で。
堪え性がねえ。
そう簡単に、一度火がついた怒りは――
「おしっこ」
頭上で声がした。
それは突然で。
何を言われたのか判らなかった。