シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「お前日本語間違ってるって。俺、心中する気ねえから!! つーか、お前の小便は殺傷能力あるのかよ!!?」
リスも必死なら、俺だって必死だ。
俺の頭によじ登ってこようとするリスを引き剥がしながら、俺は焦ってギャーギャーだ。
「ワンコ。俺、チビを運んでやる!!!」
その時、機転利かせてくれた小猿がささっと走り出て、両手で丸まるとしたチビリスを掬うようにして、遠くに運んだ。
しーんとなった場に居る俺達は、その成り行きを黙って見守る。
遠くから、小猿の声が聞こえた。
「まだ出るの!!? まだ止まらないの!!? 15秒は経過して…嘘、まだ!!!? ええええ!!?」
………。
まあ…2リットルポカリだし。
出す方は、チビリスだし?
突然起きたバタバタ劇。
残された俺達は、ぽかんとそちらを眺めているだけ。
さっきまでの緊張感が吹き飛んで、今にもカラスがカアカア鳴きそうな…コメディみたいな状況。
あのKYリスに――
俺の怒りを鎮火されちまった。
俺は溜息をついて片手で顔を覆うと、その場でしゃがみこんだ。
戦意喪失。
酷く疲れた気がする。
脱力だ。
だけど思うんだ。
もしも――
あの水膨れ&腹膨れチビがいなかったら。
何よりチビがポカリ飲んでいなければ。
今のこの…気の抜けたような場面は訪れてなかっただろう。
俺は我慢出来ずにアホハットに飛びかかり、勝敗抜きにして、今頃…此の場には険悪な空気が流れていたはずだ。
ありえねえ状況が巡り巡って、
今の場面に行き着いている。
この…ほのぼのとさえ感じる、平和的場面に至ったのが必然だというのなら。
リスを登場させてポカリを差し出した…元五皇の差し金かもしれないと。
そう考えれば、毒牙を抜かすようなあのお騒がせリスの存在もまた、今の俺にとっては…意味があり、重要性があるのか。
認めたくねえけれど。
そんな時、何やら歌声が聞こえてきた。
………?
この優しげな声音は、小猿のような甲高さはねえ。
あの…チビだ。
玲の声で歌っているらしい。