シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
玲の歌声は学園祭で聞いた。
今まで櫂同様、玲も歌など歌ったことがねえ。
歌好きだと聞いたこともねえ。
それなのに、ちゃっかりビブラートまでかけるその技量。
高音域を特に伸びやかに歌い上げた、甘い甘い…王子様声。
時折…吐息交じりに囁くように歌えば、耳で"孕んだ"女共は、悶えてばたばた沈んでいったっけ。
あいつの色気は半端ねえんだ。
玲を構成する全てのものから、艶は出て来る。
最近は確信的だ。
それなのに、俺ばかり"エロ"扱いって何だよ?
それはちょっと納得いかねえ。
そんな玲の歌声が、次第に大きく耳に届いてきた。
「♪りす りす 小りす
ちょろ ちょろ 小りす」
………。
「あんずの実が 赤いぞ
食べ 食べ 小りす」
何を…歌っているんだ、あのリスは。
あんな…色気を漏らしたような、エロい声で。
「……。童謡『りすりす小りす』だ。………。きっとレイは…全て出し切り、すっきりして、余程気分がいいんだな」
櫂が苦笑して、頭をぽりぽり指で掻いていた。
気分良い…。
そうだよな、2リットル、出したものな。
横に歩く小猿も、つられて歌っている。
嬉々として歌っている。
「「♪りす りす 小りす
ちょろ ちょろ 小りす」」
………。
「「さんしょの露が 青いぞ
飲め 飲め 小りす」」
…………。
小猿。
お前…何懐柔されてるよ?
何ハモり出したよ?
大きくなる…凸凹アニマルコンビの姿。
…………。
まあ…単純小猿はいいとして。
「「♪りす りす 小りす」」
大声で…何処となく自虐的な童謡を合唱しながら、意気揚々と2足歩行で戻ってきたリス様は。
「………」
それはそれは随分とほっそりされており。
先刻まで萎れていた…今はやけに色艶がよろしい立派な尻尾を、ふさふさ左右に揺らせて、堂々たる…王者の貫禄でのお出ましだ。
体内の毒素も贅肉も、ポカリと共に排出されたんだろうか。
…………。
とんでもねえ、リスだ。
「「あははははははは」」
腹を抱えて爆笑したのは――
アホハットとクマだった。