シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

追従 櫂Side

 櫂Side
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玲と翠の歌声にて盛大に奏でられる…童謡『りすりす小りす』。

まさか、本物(?)のリスに歌われるとは、作詞を担当した…かの偉大なる詩人、北原白秋も思ってもみなかったことだろう。


それまでの緊張感がどこへやら。

なんで…こんな状況になった?


「ひーひー。このレイはん最高やわ~」


身を捩らせ、目尻の涙を指で拭う情報屋の口調は、今まで通りの軽いものに戻っていた。


動から静。

静から動。


その切り換えが出来て、まるで別人のように…両極端の顔が出来るのは、ある意味…さすがだといえる。


纏う空気のスイッチの切り換えを、俺達に悟らせずに実行出来るのは、氷皇も緋狭さんも同じく。


ただし"必然"を掲げる五皇が、今のこの姿を見せ始めたのは、故意的か否か…
どうしても俺は邪推して勘繰ってしまうけれど。

それでも和やかに変わった空気のおかげで、密やかに息をつけている事実だけは…レイに感謝せねばならない。


そう、レイによって一触即発だった空気が払拭された。

俺でも制止しきれなかった…煌の直情的な短気さが、小さなリスによって抑えられたんだ。


何ともそれは、苦々しい気分だ。


「なんちゅー歌を歌ってるんだ、あのチビ。よくあんな童謡があるということを知っていたもんだ。小猿も、櫂…お前も。俺…初めて聞いたよ、あの歌」


怒りの火を完全に消し去り、煌は引き攣った顔で俺に言う。


「まあ…メジャーな童謡ではないからな」


苦笑しながら答えると、


「お前は歌とは無縁な奴だと思っていたけれど、そんなのまで知ってるお前の頭脳は、さすがだよ」


煌は腕を組みながら、感嘆したように独りでうんうんと頷いている。


俺が童謡について、ある程度知識があるのは…昔、芹霞とよく歌っていたからだ。

この世界でやけに童謡が出て来るのは、俺の記憶に起因するからなのかもしれない。


脳裏に蘇るは――

神崎家にあった『童謡全集』のCD。


芹霞と一緒に歌が歌いたくて、懸命に聞いて歌って覚えたものだ。


それくらい俺は、芹霞の前では拙い歌を歌っていたが、俺が音痴だと近所の子供に揶揄され、それがトラウマとなって以来、この前の学園祭で歌うまで…芹霞の前で歌うことを控えてきた。

この世界で忌まわしきZodiacの歌を始め、懐かしい童謡を皆で口ずさんだけれど、もしも学園祭でゲリラライブなど敢行していなければ、俺はずっと意地になって歌わずにいたはずだ。


もし歌わずにいたのなら、俺は、此の世界におけるゲームクリアの為の"ペース掴み"を、どんな方法に頼っていただろう?
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