シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

怒りの情とは…

"建前"の垣根を瞬時に薙ぎ払い、真実の心を露呈させる感情。


煌の…本当の心を見たかったのか?


煌が怒り訴えたのは、緋狭さんの偉大さ。

どれだけ俺達が救われてきたかということ。


立場を弁(わきま)えて自制するよりも、緋狭さんへの尊厳を護る為に戦おうとした。


それに対して、情報屋が"満足"という感情を返したというのなら。



見たかったのは――

緋狭さんへの…愛情?


少なくとも、あの時の俺は…

情報屋の"走査対象"ではなかったんだ。


――坊しかできぬことがある。

――坊の"立場"を確立せよ。


俺には俺の役割があるように、煌にも煌の役割があるのだろうか。


俺は…煌の優しさを利用して、半ば強引に此処まで連れてきた気でいたけれど、結局の処、煌という男の存在価値を見出しているのは俺だけではなく、俺を"必然"に動かしている者達も同じということか?


未知数の煌。

秘めたる力の大きさは、長年近くに居る俺ですら推し量ることが出来ず、他に何を秘めているのかも判らない…そんな俺の幼馴染。

元制裁者(アリス)として、煌の身体に様々な"実験"を施した紫堂に対しての憎悪の念が消えていなかったら、直系である俺とこうして肩を並べることもなかったろう。


それを引き合わせたのは緋狭さんだ。

緋狭さんがしたのはそれだけではない。


俺から8年前の煌への憎しみを取り除き、煌の中から…制裁者(アリス)の記憶を除いた。


"不必要"なものを取り除き、そして残ったのは、緋狭さんが慈しむ…ただの如月煌という男のみ。


煌は元々、緋影の特異な肉体の名残があり、肉体の再生能力は高い。

その上、紫堂の力を引かないはずなのに、まるで紫堂の者のような"火"の力を始め、俺達にはなしえない様々な潜在能力を発揮する。


"お!!? 出来ちまった"


簡単に。


それに対し俺達は、"煌だから出来ても不思議ではない"という、暗黙の了解のようなものがあり、最近では俺は、驚くより…笑いの方が先に出て来る始末。


妬みや僻みが入らずに、良好の関係を築けるのは、偏(ひとえ)に煌の大らかな人柄故のこと。


そうなるように育て上げたのは、緋狭さんだ。

緋狭さんこそが、一番に煌の潜在能力を見抜いているはずだ。


――坊、全ては意味があり、繋がっている。

――お前の動きもまた、未来からみれば…必要的事象。


その煌が俺の傍に居るのも、何か意味があるのだろうか。

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