シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


謝るべきは俺の方だった。


神聖なる緋狭さんの手を煩(わずら)わせ、真紅で穢してしまった…俺のこの不甲斐なさを。


俺が確(しっか)りとしていれば。

俺に強さがあれば。


起きなかった事象に違いないだろう。

そして芹霞に、忘れられることもなかった。


ああ、俺は何度、緋狭さんに救われてきたのか。

そう思えばこそ。


失望だけは決してさせたくないと思う。

片腕を切り落としてまで俺に道を拓いてくれた緋狭さんを、裏切ることだけはしてはならないと思う。


だから――


――坊しかできないことがある。

――案内役を用意した。

――坊、"印"を持ち、裏世界へ行け。


緋狭さんがそう言うのなら。


――お前は、前に進まねばならぬ。


俺は――


――お前は、もっと強くならねばならぬ。


何を後回しにしても、そうしないといけない…そう思ったんだ。


――坊に起きたことは、裏世界に繋がるものと心得よ。

――"生還"を利用せよ。


――案内役の指示に従え。


俺の首筋につけられた、

黒き薔薇の刻印。



――全ては、必然に。



俺の手に浮かび上がる、

赤き薔薇の刻印。



緋狭さんが俺の胸を貫いたことすら、"必然"だというのなら。

緋狭さんが、身体を張ってまで…そう導いたものであるならば。


俺は必然の"証"を抱いて、何がなんでも行かねばならないんだ。


裏世界に。


――裏世界にて、"死んだ"情報を集めよ。

――皆が"生きる"為に。


何もかもが謎のまま、再会は終焉を迎えた。

景色が…薄らいできたんだ。


――帰るのは坊だけだ。私は、"特殊な事情"にて、此処から出られぬ。それに今、肉体に戻れた処で…少々厄介なことになるしな。まあ…自由気儘でいられる時間にも制限はあるが。


――ああ、もう時間だ。また…あの"ふさふさ"に囚われに戻るか。そういう…"約束"だから仕方が無い。


――時間を気にするなど…ふふふ、まるでシンデレラの気分だな。


どこまでも底抜けに明るく、心配など何もないというように。

だけど俺は、それが妙に気になって。


――ふ…。私を助ける? では…気長に待っていよう。


簡単にはいかないということを暗喩されたように思え、


――私のことは気にせずともよい。すべきことをしろ。それだけだ。


達観しているような、動じないその表情が…緋狭さんが背負う事態が、逼迫(ひっぱく)しているように思えたんだ。
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