シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
――案ずるな。肉体が滅びぬ限り、意識も滅びぬ。ははは。地縛霊になれば、坊を護る駄犬が怯えて息絶えてしまうな。
肉体が朽ちた時は、別れになると…そう聞こえた俺は、慌てて緋狭さんの肉体を生かせる方法を聞いたら。
――それは言えぬ。それが…ルールだ。
哀しげに苦笑する緋狭さん。
それも次第に薄れ行く。
裏世界。
情報が蔓延する裏世界なら、方法は判るのだろうか。
それを口にした時、緋狭さんは薄く笑った。
――………。坊に余裕があれば、探してみるといい。
それは二の次にすべき、どうでもいいことのように…緋狭さんは言う。
投げやりとも違う…その犠牲的な情こそが、緋狭さんの本質なんだろう。
緋狭さんは、助けて欲しいとは言わない。
生きたいとは言わない。
生きよとだけ俺に言う。
それが…無性に哀しかった。
ゆらゆらと…陽炎のように薄れゆく緋狭さんの姿。
俺の肉体が覚醒し始めたのを知る。
――坊。………は、私の……。だから………。
薄らぐ緋狭さんの声も…俺には聞き取りにくくなり。
――……。……シュを……従えよ。
戻るなら、緋狭さんと!!!
そう…手を伸した時、緋狭さんは消え…そして俺は覚醒した。
――櫂様!!?
俺は見た気がしたんだ。
緋狭さんが消える直前。
俺が覚醒するまでの僅かな時間。
奥から伸び出た…触手のように蠢(うごめ)く、白い"ふさふさ"した何かが、立ち竦む緋狭さんの四肢に、シュルシュルと…枷のように巻き付きながら、緋狭さんごと…猛速度で元の場所に戻っていくのを。
緋狭さんは、俺の心の中に来た。
そして緋狭さんは、連れ戻された。
"ふさふさ"の触手がある場所に。
俺の心の世界の…遙か奥の暗闇の中に。
緋狭さんは、"あれ"の為に外に出られないのではないか。
あの"ふさふさ"の触手は何だったのだろう。
――何、このわさわさ!!?
ふさふさではないが、触手というものは…玲の心の中でも見た気がする。
外敵を排して、玲の心を護ろうとする…まるで人間の中の白血球のようなもの。
玲の中では、その触手の正体は…"狂気"だった。
ただあれは…玲の心の中に存在しているモノであり、外部から追跡してきたものではなかったと考えれば、緋狭さんを縛り上げたあのふさふさの触手は、何処の場所からの産物なのか。