シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
時間にしては、1秒にも満たない僅かな刻。
あの緋狭さんを無抵抗にしてまで連れ戻せる、その威力。
緋狭さんの身に何が起きているのか判らないけれど、彼女は危険を冒して…俺を引き上げに来てくれたことだけは判ったんだ。
緋狭さんが置かれている"約束"だの"ルール"だのは判らない。
いつものように黙して、謎めいて笑うだけで。
しかし緋狭さんは、裏世界に方法があるか聞いたことに対しては、否定しなかった。
探す価値があることを匂わせた。
緋狭さんが囚われた場所にで、どんな光景が広がっているかは判らないけれど、放置して良いモノではないことは判る。
緋狭さんは何処に連れられたのか。
誰かの心の中であるというのなら、誰の心の中に囚われたのか…此の世に何億といる人間達の心を虱(しらみ)潰しに調べるのは不可能なこと。
俺自身でさえ、自分の心の構造は推し量れないのだから。
けれど、クマや情報屋に…裏世界の所在を訊かれて、俺は思ったんだ。
俺が導き出したのは、裏世界は心の最深層部に在るということ。
あの触手が消えたのが、俺の心の最奥部分であるというのなら、心の深層部…裏世界に連結している可能性はないだろうか。
自分の心の中なのに、その構造がよく判らない俺は、あまりにもどかしい推測しか出来ないけれど、裏世界が緋狭さんを助ける手段の1つとなりえるのなら。
これより赴こうとしている裏世界は…また1つ希望となる。
「櫂、お前も混ざれ」
突然の煌の声に、それまでの思考を一時中断させた俺。
何事かとそちらの方に目を向けた俺は、そこで気づく。
「「「「りすりす 小りす~♪」」」」
深く深く考え込んでいた俺以外、全員で大合唱していたことに。
その歌声すら耳に入らず、物思いに耽っていたらしい俺は、
「「「「ちょろちょろ 小りす~♪」」」」
ただ唖然とするばかり。
…………。
何で…こうなった?