シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
俺は、腰に装着している…拳銃嚢(ホルスター)にしまった拳銃を、手で触る。
硬い顔つきをしているのは、煌も翠も同じで。
余裕なのは、元緑皇と…正体不明の毛むくじゃらの男。
リスすら、真面目な顔つきだというのに。
結局…レイの期待虚しく、断固拒否を貫く煌によりクルクルは折り畳まれ、情報屋の…シルクハットの中にしまわれた。
「何で畳んでしまえるんだ」とか「手品師か」という突っ込みが何処からも起きなかったのは、くりくりとした目を更に見開き、戦慄(わなな)いてそれを見ていた…レイの絶望的な顔に、恐らく誰もが心を痛めたからで。
――クルクル付帽子はワンワンはん専用の特注なんや。ワンワンはんのサイズ設計やから…それ以外があれを被って歩けばクルクルが落ちてしまうやもしれん。時と場合を見て、クルクルはまた組み立てるさかい…堪忍な。これ…心ばかりのお詫びの胡桃や。
――僕の胡桃ッッ!!!
それだけでご機嫌になるレイは、胡桃で懐柔されていることに気づいていない。
――あれ、聖も来るの? 此処でバイバイじゃないんだ?
――なんや冷たいわ~翠はん。役目が終わっても、皆はんと別れるとはひと言も言うてへん。ひーちゃんも面白そうだからついてきま。
そう軽薄に笑う情報屋の中には、やはり…いまだ何かを見定めようとする鋭い光は健在している。
元から、ずっと行動を共にするつもりだったのだろう。
情報屋には、緋狭さんとの約束を締結するに至らせた、私的な思惑があるように思えるんだ。
裏世界への案内の役目は二の次で。
ギブアンドテイク。
多分。
それは…俺等にとって、結果…吉と出るか凶と出るか判らないけれど、情報屋に思惑があることを、緋狭さんが見抜けぬはずはないと思うから。
ならば、緋狭さんの名において、共に進んで行くしかない。
これは…緋狭さんの意思だと。
俺の首筋についた黒薔薇の刻印。
これは情報屋につけられたものだ。
この謎は現段階、まるで明かされていない。
ゲームが終わり、何とか裏世界の入口が開いたいえど…まだまだ俺達は、情報屋の手の中にいる。