シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
情報屋の真なる"結論"は、自らの正体やこの世界や裏世界が如何なるものかの"正解"ではなく、むしろそれは最低限判らねばならないことのように思えるんだ。
その為にわざわざテストのようなもので、ヒントを与えた程で。
情報屋が本当に求めていることは、もっと別の処にある気がする。
俺達は、二重に試され続けていたような気がするんだ。
だから――
最終結論が出るまで、情報屋はついてくるだろう。
気を抜くことは出来ない。
もし…情報屋を失望させてしまったら、即座に切り捨てられる可能性だって十分ありえる。
情報屋の本質は、優しさで出来ているわけではなく、ただ表向きの…処世術に長(た)けているだけだ。
"変化"の緑皇。
ならば――
味方から突如敵になることだってありえると思うんだ。
明確性がないから、逆に怖い。
いつ…どうなるのか。
今度は裏方に回り、何を見定めようとしているのか。
「では裏世界への道を拓く」
そうにやりと笑い、シルクハットを被った情報屋。
そして指を鳴らすと…彼の身体が、緑色の光を放ち出した。
「「「!!!?」」」
情報屋が生じさせる力の凄まじさに、肌という肌がびりびりと反応する。
驚異的な…俺の風の力と同じ緑の光。
伊達に…五皇をしていなかったということか。
最強の紅皇や氷皇程の力はないにしても、情報屋が幾重にも練るエネルギーの波動は、圧倒的で。
それは生気のように、次々に瑞々しい気を生み出し…怒気のように、四方八方に奔流する。
緑色の…生命の循環を見ているようだった。
循環すればする程、緑色の濃度と強さは増していく。
「大周天……?」
翠が零したその言葉。
"大周天"とは、皇城が流れを汲む道教の一部。
煉丹術という、気功法の一種であり、外気功とは比較ならない…最高ランクにある手法。
自然の気を体内に取り込み、そして体外に吐き出すことを繰り返す。
それにより大自然を超越し、宇宙規模の交流を目指していく…そんなものであったはず。
昔昔の…緋狭さんから教えられた知識によれば。
俺の操る風とはレベルが違う。
精緻に練り込まれた緑の光は、やがて俺達を取り巻くように…頭上の1点に集約し、檻のような閉塞的空間を作り出していく。
凝縮した力の檻。
目映い緑色。
俺達を緑で染め上げるように、その力と光が更に強まった時。
「大地礼賛」
そんな情報屋の声が聞こえると――
今度は下から突き上げるような大きな力を感じた。