シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
――――――――――――――――――――――――――――……


降り立ったばかりの車が走り去る。


「うわ、これが北新宿かい!! 繁華街のはずなのに、なんでこんなに葬式ムードなんだ!!?」

由香ちゃんが控え目に声を上げれば、玲くんが苦笑した。

「由香ちゃんはずっと"約束の地(カナン)"にいたものね。この数日の間、東京は…ん、"生ける屍"のような人間が僅かに行き交う、廃都と化してしまったよ」

中々に玲くんは上手いことを言う。


ふらふらと…生気ない顔をして歩く人は、正しく"生ける屍"。

ただあたしの知る屍と違うのは、常に何かびくびくとして周りを窺っていることで、そして、"何か"を見つけると急に姿勢を正すんだ。

"何か"…それは、自警団の姿を見つけると。


「買い物客はいるのかい? 駅前デパート…随分電飾少なくなったけれど、まさかこんな時にエコを断行しているわけではないよね?」

「デパートには僅かだけどちゃんと客は居る。それなりに"普通"にね。ただし…自警団のいないトコロ限定になるけれど」

あたしは、APEXの下フロアにあった洋服店を思い出す。

確かにあそこには、普通の若い客層もあったし、玲くんの姿を見てきゃっきゃと華やいで賑わっていたのも確かだ。

あそこには、自警団はいなかった。


そして同時に思い出すのは――

……呉羽さん、レディース女総長だった彼女。

折角まともな職に就いてチーフにまでなったのに…彼女の生存は絶望的。

崩れたケーキからして意地悪されたけれど、ちゃんとあたしを着飾ってくれて、そして子供に還った可愛い玲くんを見せてくれる原因を作ってくれたのは彼女だった。


「呉羽さん…。まさかこんなことに巻き込まれるなんて。レディースの後輩が悲しむよ…」

「!!!? 呉羽って…あの店員の名前だよね!!? レディース!!?」


あたしの嘆息に、何故か玲くんが大げさなくらいの大反応。

儚げな物静かな美少女が、眼鏡をずり落しそうなくらいに仰け反り、声はひっくり返っていた。


呉羽さんの過去が、余程驚愕ものだったのか。

まあ確かに、身近に"族"関係はいないけれど…。


「本当に、レディースのクレハさんなの!!?」

「玲くん知ってるの? レディース時代の話」

「人伝(ひとづて)で聞いたばかりだけど」

「ふうん? 何かふらりと現われて、レディースの抗争を叩き潰した緋狭姉に、凄く憧れてレディースのトップにたったらしいよ。呉羽さんは、他の店員さんもよく知るかなり有名人だったみたい」


緋狭姉が、伝説となって語り継がれた"初代"だったことは伏せた。


「本当…かよ。しかも緋狭さんまで…。紫茉ちゃんと…運命……?」


玲くんはやや青ざめた顔で…ぶつぶつと何やら呟いている。
< 736 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop