シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「おっと自警団発見。神崎、師匠…しーっ!!」
由香ちゃんの声。
視界の端に白い制服を捉えて、あたしと玲くんは固い顔を見合わせた。
――いいか、外では騒ぐな。
――おしとやかに振る舞え。
――そしてこれを襟元につけろ。
出かけ際、紅皇サンから渡されたのは3つのバッジ。
――"免罪符"だ。
それを代表して受け取った玲くんは言った。
――黄幡会だね、この九曜紋は。"免罪符"とかいう怪しげな名前、確か以前、桜からも聞いたことがある。東京都が…黄幡会と結託して、これがなければ、罪は免れないとか。
――罪って…黄幡会が裁くのかい?
――黄幡会か、提携している自警団か。
それに対して、紅皇サンは笑って言ったんだ。
――罪だけではない。今はこれが全ての行動の規範となっていて、これがなければ自由にモノも買えない。特に、未成年に禁じられているものは。
お酒とか、煙草とか…なんだろうか。
「うわっ結構居るね、師匠…」
「急に数が増えた気がする…」
制裁者(アリス)のような白い制服に身を包み、基本2人1組で、びくつく歩行者とは対照的に堂々と闊歩する。
何でこんなになってしまったんだろう。
最初は…あたし達と同じ年代の"行きすぎた"青少年を取り締まり、"品行方正"を目指していただけではなかったのか。
今の状況は、まるで…自警団の王国にあたし達が居るようだ。
「ニャア」
「わっ!!」
少しだけ…開いたチャックの中から白い猫の手が出て来て、あたしは驚き、慌ててぺちんとその手を叩いた。
「ニャア」
「遊んでいる暇はないの!! 黙っていて!!」
その時、自警団の白い制服が結構近くで見えて、あたしは慌ててふさふさな手をカバンにねじ込んだ。
出掛けるときピンクのカバンも押し込んだから、その金具がクオンの何処かにぶつかったらしく、しばらくニャアニャア声が聞こえた。
鳴き止みそうもなく困っていたら、突然玲くんが、
「あ、百合絵さん!!!」
………。
凄いや、嘘なのに…ぴたりと声が止んだ。