シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その早業を呆然と見ているあたしに、由香ちゃんが指でつついて話しかけてくる。
「なあ神崎…師匠の女装、今回何か違和感ないか?」
「由香ちゃんも感じた?」
「うん。多分……」
由香ちゃんは八の字眉になっていて。
「師匠が…"男"を目覚めさせているからだ。だから女であることに違和感を感じるんだな。それが…裏目に出なきゃ良いけど…」
由香ちゃんは、困ったような顔をした。
違和感…。
確かに玲くんの顔つきは変った気がする。
元々玲くんは、煌の様な男臭い攻撃的な美貌ではなく、周りを惹きこんで一緒に溶け合うような…柔らかな美貌なんだ。
荒々しいよりも、静かなる…色気を発する。
控え目だけれど、それでも自己主張ははっきりとしている。
言うなれば白い色。
派手な鮮やかさはないけれど、他の色を薄める力を持つ癒しの色。
無彩色でありながら、多色を圧して膨張しようとする。
しかし透明さに一番近い色故に、その動きが垣間見えるから…夢幻のように儚く、不安定にも思える色だ。
その玲くんが、黒い色を纏っているから…
あたしの違和感は恐らくそれだろう。
黒色は、攻撃性を秘めつつ…己の闇で全てを覆い隠す強い色。
どの色にも屈しない、強い意思を持つ色。
黒は揺れない。
黒はぶれない。
不透明であるからこそ、重厚な攻撃性を持つ。
それは、確かに男の色だ。
多色に惑わされないのは、白にも似ていながら、白のような清廉さは持たない。
全てを受入れる覚悟の色。
少し前までは、玲くんの女装は…白に染まった儚さがあった。
だけど同じ格好をしている今、玲くんの中身は少し違う。
玲くんの覚悟。
それが由香ちゃんの言う"男"のものだというのなら。
玲くんの心が不透明に思えて、それが置いてきぼりをくらったようで…。
あたしはそれを、認めたくないのかも知れない。
ソレダケ?
変らないでいて欲しい。
玲くんはいつものまま、優しくほっこりとしていて欲しい。
今までの思い出の延長に居て貰いたい。
今まで通り、白い色で居て欲しい。
黒は玲くんの色じゃない。
ダレナライイノ?