シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「だとしたら…玲くん。首を絞めて殺したと訴えた"エディター"の訴えは、本当のコトじゃなかったと言うこと? やっぱ妄想!!?」
「一縷が頭蓋を割られて脳を奪われた、ということが真実なら、そこまでの詳細な記憶がないエディターの訴えは信憑性が薄い。しかしそれを単純に偽としていいものか」
やけに含んで玲くんは答えた。
「櫂は一縷と上岐妙が同一人物だと確信していた。更には2人ともオッドアイ。一縷と…昔に会ったイチルが同じかどうか…そこまで話を進めていたはず。
あいつの直感が間違うはずはない。だとすればどういうことなんだ?」
「ねえ…玲くん…」
「ん?」
「"昔に会ったイチル"って…
あたしだけじゃなくて、紫堂くんも会ったことがあるの?」
片方の瞳の色が違うイチルちゃん。
あたしの夢の中に出て来るイチルちゃん。
紫堂櫂も…知っているの?
「「……」」
玲くんと由香ちゃんは途端顔を見合わせて、複雑そうに顔を歪めさせた。
そして――
「君と…櫂は、幼馴染なんだよ」
そう震えるような声で玲くんが言った。
「何度も聞いたけれど…あたし、その記憶は全くないんだ。何でかな…?」
気持ち悪い。
皆が覚えている記憶が、あたしにはないなんて。
本当なの?
"約束の地(カナン)"で、紫堂櫂が慟哭してまで訴えたことは…本当?
それを拒んでいたというのなら、あたしはなんて酷い女なんだろう。
だけどね、全然記憶が無いんだ。
紫堂櫂との思い出が何1つ思い出せない。
これで…12年もの幼馴染だったの?
あたしには、そっちの方が懐疑的で。
玲くんは青ざめた顔をして、辛そうに口を結んでいた。
そしてあたしをそっと抱き寄せると、ぽんぽんと優しく頭を叩いた。
「ゆっくり…思い出そうね…」
何で…そんな苦しそうな顔をしているの?
あたしの夢には、あたしが大好きな男の子が出て来る。
顔も判らない、名前も判らない。
それが…紫堂櫂とでも言うの?
――ちゃあああん!!!
あたしには、大好きだった男の子が居た。
いつも一緒に居たんだ。
大事な大事な子だったんだ。
それに付随する記憶がない。
そして…紫堂櫂の記憶もない。
これは…偶然?
――ちゃあああん!!
それとも――
本当に、紫堂櫂は…。
ずきんっ。
頭が…痛い。
「芹霞、芹霞!!!?」
ずきんっ。
何…これ。
痛みに思考が掻き乱される。