シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「だとしたら…玲くん。首を絞めて殺したと訴えた"エディター"の訴えは、本当のコトじゃなかったと言うこと? やっぱ妄想!!?」


「一縷が頭蓋を割られて脳を奪われた、ということが真実なら、そこまでの詳細な記憶がないエディターの訴えは信憑性が薄い。しかしそれを単純に偽としていいものか」


やけに含んで玲くんは答えた。


「櫂は一縷と上岐妙が同一人物だと確信していた。更には2人ともオッドアイ。一縷と…昔に会ったイチルが同じかどうか…そこまで話を進めていたはず。

あいつの直感が間違うはずはない。だとすればどういうことなんだ?」


「ねえ…玲くん…」


「ん?」


「"昔に会ったイチル"って…

あたしだけじゃなくて、紫堂くんも会ったことがあるの?」


片方の瞳の色が違うイチルちゃん。

あたしの夢の中に出て来るイチルちゃん。


紫堂櫂も…知っているの?



「「……」」


玲くんと由香ちゃんは途端顔を見合わせて、複雑そうに顔を歪めさせた。



そして――


「君と…櫂は、幼馴染なんだよ」


そう震えるような声で玲くんが言った。


「何度も聞いたけれど…あたし、その記憶は全くないんだ。何でかな…?」


気持ち悪い。

皆が覚えている記憶が、あたしにはないなんて。



本当なの?


"約束の地(カナン)"で、紫堂櫂が慟哭してまで訴えたことは…本当?


それを拒んでいたというのなら、あたしはなんて酷い女なんだろう。


だけどね、全然記憶が無いんだ。

紫堂櫂との思い出が何1つ思い出せない。


これで…12年もの幼馴染だったの?

あたしには、そっちの方が懐疑的で。


玲くんは青ざめた顔をして、辛そうに口を結んでいた。


そしてあたしをそっと抱き寄せると、ぽんぽんと優しく頭を叩いた。


「ゆっくり…思い出そうね…」


何で…そんな苦しそうな顔をしているの?


あたしの夢には、あたしが大好きな男の子が出て来る。

顔も判らない、名前も判らない。


それが…紫堂櫂とでも言うの?


――ちゃあああん!!!


あたしには、大好きだった男の子が居た。


いつも一緒に居たんだ。

大事な大事な子だったんだ。


それに付随する記憶がない。

そして…紫堂櫂の記憶もない。



これは…偶然?



――ちゃあああん!!



それとも――

本当に、紫堂櫂は…。



ずきんっ。



頭が…痛い。



「芹霞、芹霞!!!?」



ずきんっ。


何…これ。


痛みに思考が掻き乱される。
< 743 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop