シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「ふふふ。ちょっといじめただけなのに、そんな真っ赤な顔で潤んだ上目遣いをされると…僕の方が変な気分になっちゃうじゃないか。………。ああ…可愛いその唇、今すぐ食べちゃいたいけど…さすがに自重しないとね」


「神崎、お水買ってきたよ!!! 飲めるか……って、顔凄く真っ赤だぞ!!? 神崎まで熱出したのか!!!?」


ごめん、由香ちゃん…。

ちょっと違うんだ…。

これも軟弱な精神故に。


あたしはふるふると首を振り、黙したまま立上がってよろよろと進み、そして…立て看板に激突した。


痛い。

違った意味で、頭が痛い。


「気を紛らわせようとしたんだけれど、刺激…強すぎちゃったかな…」

「師匠が原因かい!!」


玲くん…刺激が強すぎます…。


とにかく熱を引かせようと、由香ちゃんから貰った冷えたペットボトルの水をゴクゴクと飲んだ。


玲くんに翻弄されているこの身が恨めしい。

逆転はあり得ないからこそ、恨めしすぎる。


ゴクゴクゴク…。



「立ち飲みなんて…

罰則(ペナルティー)ね…」



「ぶほっ!!! げほげほ…」


突然諫(いさ)めるような少女の声がして、それに驚いたあたしは…玲くんがよくするように、派手に咽(む)せてしまった。


涙目でげほげほしながら、慌てて声に振り返ってみると…そこには黒々としたマッシュルームがあった。


それは髪型のこと、立っていたのは…顔のパーツが極端に薄い、小柄な少女。

自警団とお揃いの形の…"青い"制服を着ていたんだ。


処罰されちゃう!!?


「往来で一気飲みなんて処罰対象。だけど私は自警団ではないから、よかったわね…」


自警団の制服を着ているが、自警団ではないらしい。


何処までも無表情の少女。

顔に陰鬱の翳りが或る、根暗にも見える少女。


両手に抱えているのは…


『黄幡会の入会しおり』


山にあるパンフレット、一体どうする気何だろう。

そして何故か、片手に握りしめているのはデジカメ。


「こんにちは、玲さん。玲さんの顔ミスコンの写真で知っていてよかったわ、塾に…案内すればいいのかしら」


「ということは…」


玲くんが目を細めれば。


「私は遠山晴香。だけどまずは約束…写真を撮らせてね」


――晴香は、目鼻立ちが大きく派手好きな…イマドキの女の子だ。イケメンというのが大好物らしく、とにかくキラキラ派手なものが大好き女だから、すぐに判ると思う。


何処が…派手なの?

もうお笑い芸人にしか思えない…個性的なマッシュルームカットは別として、目鼻立ちはとことん小さすぎ、地味な格好をしている玲くんより余程印象が薄く、そのまま風に吹かれて消えてしまいそうな少女だ。

真の地味子とは格好のことをいうものではないのだと知った、17歳の冬。
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