シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その地味子が、玲くんをデジカメで撮りまくる。
玲くんの周りを忙しくくるくる歩き、大胆に連写まで始めた…一方的な撮影会。
さすがの玲くんの笑顔も、引き攣ってくる。
女装がバレてしまわないよう、見ている方もハラハラだ。
あたしはこそこそと由香ちゃんに訊いた。
「由香ちゃん。玲くんにはおヒゲはないんだろうか」
「ん…男だからあると思うけど、師匠は無縁な感じだよね。自覚してれば撮影自体拒否るような気がするけれど…全然へっちゃらだ。実際女の子みたいにお肌すべすべだし、生えてないのかな」
「謎だよね…。おヒゲ以外にも玲くんに毛はあるのかな…」
「神崎…どうして毛に拘るんだい?」
「だって玲くん、毛のこと聞いたらテレテレするんだもの…。あるのかないのか、はっきりしないんだよね…。だから気になって」
「師匠…。何処に照れる要素があるんだろう。何処の毛を想像したんだろう」
そして唐突に撮影会は終わる。
「あら…32GB(ギガバイト)のSDHCがの空き容量が無くなってしまったわ。やはり最高モードにして撮すと容量食うのね。残念だけれど、撮影はおしまいね。今度は1TB(テラバイト)のSDXC対応の一眼レフタイプにしようかしら」
「1TB…また撮りたいのか?」
由香ちゃんは絶句していた。
「では行きましょう。貴方達がもたもたしているから、時間が経ちすぎてしまったわ。別に私が困るわけではないけれど、仮にも私が居て黄幡塾に遅刻なんてしたら、私の面目も丸潰れ。仕方が無いから、早歩きで行きましょう。ほら、さっさとおし」
………。
この黒いマッシュルーム…切っても切っても中身は真っ黒のようだ。
初対面のあたし達に、喧嘩を売っているのか?
しかしあたしだって子供じゃない。
紫茉ちゃんの顔も立てるために、ぐっと堪えた。
こんな強気な性格なのに、何でこんなに生気ない顔をしているんだろう。
紫茉ちゃんの表現とは違い、病んでいるのともまた違う…この陰鬱な空気は何なのだろう。
「瘴気を感じるな。微か…だけれど」
玲くんから小さい声が漏れてきた。
玲くん達がよく使う"瘴気"。
過去、そう呼んでいた場面を思い出せば、確かにそれに近いような気がする。
彼女には悪いが、長く接していたくないような、そんな気分にさせるものだ。
この子が、紫茉ちゃんが流されるくらい喋りまくっていた子?
小猿くんの写真を盗撮して売りさばいて大もうけしていた子?
イケメン好きな…晴香ちゃん?
外見からはそうは見えない。