シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「貴方達を黄幡会に勧誘しようと思ったけれど…もう信者なのね」
無気力で、ぼんやりとしているような顔。
やる気がないだるだる久遠とは意味が違う。
久遠は、表情を殺していても…色がある。
生彩がある。
だけどそれが彼女には見られない。
ふと思った。
もしも"生ける屍"が喋ったら…こんな感じなんじゃないかと。
――凄く活き活きとして、ノリのいい明るい奴だ。
ねえ、紫茉ちゃん。
目の前のこの子の口はかなり達者みたいだけれど、その雰囲気は、まるで全然、これっぽっちも…紫茉ちゃんの言葉に当てはまらない。
この子、本当に…紫茉ちゃんの知る晴香ちゃんなの?
お友達なの?
「ええと…晴香ちゃん、だよね?」
あたしが聞くと、
「ええ。紫茉の同級生よ」
彼女は、はっきりと肯定する。
澱んだ…瞳で。
だとすれば遠山晴香と名乗る少女は――
紫茉ちゃんの知らない間に、地味になってしまったのだろうか。
紫茉ちゃんと晴香ちゃんの会わない期間はどれ程だったんだろう。
目鼻立ちがはっきりとした美少女と聞いていたけれど、目の前の彼女は目鼻立ちが小さくて、眉毛すらない。
薄倖というより消え入りそうな顔。
何で顔形も此処まで違うの!!?
黄幡会が彼女を変えたの!!?
それとも自警団!!?
「え? 紫茉が言ってた顔と違う? そりゃあ私、今は"布教中"で、"戦闘中"の桜華時のような化粧は一切してないし、昨日髪型も変えたもの。そうよ、今はすっぴん。それがどうかした?」
………。
そんな…理由ですか?
桜華で何を"戦闘"して勝ち取ろうとしてるんですかね、イケメン好きの晴香ちゃん。
「私の化粧した顔を見たかったの? だったら特別に紫茉と撮った写メ見せて上げる」
そして彼女が取出し操作した、スマホ画面をあたし達に向ければ…
「「unbelievable!!!」」
あたしと由香ちゃんの口から、あたし達が最も不得意にしている英単語が出て来てしまう程、正しく…驚天動地の心地。
ぎこちなく笑う紫茉ちゃんの横には、目鼻立ちが大きな…パーマでふわふわした栗色髪のギャル!!
可愛い系の華やかな美人さんだ!!!
それがこいつか、黒いマッシュルームなのか。
化粧を取ると、ここまで顔にある"ブツ"は小さくなるものなのか。
何と!!!
化粧マジック恐るべし!!!
とりあえず外見の謎は解けたけれど、それでも纏う"瘴気"の謎はまだ解けていない。