シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「ねえ玲さん…ご兄弟はいないの? いるなら紹介して欲しいわ。お父様でもいい。玲さんの男版なら、絶対絶対イケメンだと思うから。そうしたら私、1TBのメモリと一眼レフ用意して、思い切りストーカーして入浴やトイレ中を含めて全て撮りたいわ。ここだけの話、私そういうのは得意なの。桜華のイケメンと呼ばれる男は追いかけ回したわ。自分でもなんだけれど、プロの腕前よ」


ストーカーのプロの腕前を披露した中には、小猿くんとか紅皇サンは入っているんだろう。

煩悩塗れの"案内役(ガイダー)"は、玲くんに押し迫る。


「兄弟姉妹はいません。一人っ子です!!! お父様はいません!!」


ぶんぶん、ぶんぶん。

頭を横に振りまくる玲くんは、何だか必死に見える。

男とばれたら、被害を被るのは玲くんだからだろう。


「あら…。だったら従兄弟は?」

「いませんいません。うちの親戚は全て女系、婿養子です!!!」


ぶんぶん、ぶんぶん。


「そう…残念ね。玲さんが男ならいいのに」

「ぼ…私は女です、男じゃありません!!! 男装もしたくありません、そんな趣味ありません!!! 晴香さんは、計都様をひたすらストーカーしてて下さい!!」


ぶんぶん、ぶんぶん。

玲くん、頭が千切れちゃいそう。


その時、変な息遣いが聞こえて…こっそりカバンを覘いて見たら、


「………」


化け猫が、歯を剥き出しにして笑っていた。

声を潜めているのは、百合絵さん効果なのか。

…見なかったことにしておこう。


しかし道の往来で、慎ましやかとは無縁な団体を見ても、擦れ違う自警団は悉(ことごと)くあたし達を見逃す。


晴香ちゃんの丸3つの効果は絶大だ。

もしくは玲くんの丸9つの成果か。


恐るべし、丸。

凄いぞ、丸。


丸1個の点数でも、再テストとか見逃して貰えないだろうか?


けど同時に思うんだ。

こんなお金が絡んだ宗教が、"罪"を見逃す権利はあるんだろうか。

人間の罪って…そんな簡単なものだろうか。


贖罪しても懺悔しても…苦しんでいる人は沢山いるのに、その為に頑張って行こうとしている人がいるのに。


あたしは…久遠を思い出す。


"断罪の執行人"だった久遠。

どんな気持ちで、他人を裁いていたのだろうか。


自警団のような、偏ったような正義漢からではないはずだ。

心躍ることはなかったはずだ。


そういう…ものじゃないだろうか。


久遠は断罪しながら、自らが罪に囚われ…"約束の地(カナン)"から出られない。

他人の罪に触れるというものは、そこまで重大なものではないのだろうか。


だとしたら、それをよしとする黄幡会って何?

黄幡会をよしとする東京って何?


この街は――

何処か狂っている。


そう…思うんだ。
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